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2014年5月30日(金)
“拉致”古屋担当相のシナリオ ▽ 中国の司法はリスクか

ゲスト

古屋圭司
拉致問題担当相 自由民主党衆議院議員(前半)
小口彦太
早稲田大学法学学術院教授(後半)
福田完次
㈱グラブポット代表取締役(後半)
柯隆
富士通総研経済研究所主席研究員(後半)


前編

北朝鮮が拉致全面調査 日本、制裁の一部解除へ
反町キャスター
「今回の北朝鮮の拉致全面調査はどこまで本物になると見ていますか?」
古屋担当相
「その前にどうしてこういう内容で合意したのかという背景を見る必要がありますよね。まず国内的には日本は安倍政権(が誕生し)、昨年の参議院選挙で安定しましたよね。それで安倍総理自身も拉致問題に関して一番厳しいスタンス、自分の信念、哲学を持っています。その人が総理大臣。一方、国際社会を見ても、たとえば、昨年の春先まで拉致問題というのは国連の関係者でも特失踪者という認識はなかったですよ、ほとんど。それが我々日本を中心に国連や国際社会に積極的に働きかけた結果、国連の人権委員会のCOIの調査報告書に人権侵害の典型的な例に拉致というものをしっかり含めて、拉致問題を含む人権侵害が北朝鮮で行われている、けしからんという、非常に厳しい中身が出た。これによって国連関係者は拉致問題というのを認識するに至った。国際社会も、そういう認識、特に人権問題に非常に厳しいスタンスをとる国々は厳しい目を向けた。たとえば、北朝鮮と国交のある国々もあるんです。そういう国でさえも一部の国では国交を断絶すると言っているような状況です。世界が厳しく北朝鮮に目を向けたという、この2つの要素というのは非常に大きいです」
反町キャスター
「北朝鮮が経済的に手詰まりとか、中韓接近による孤立化とか、北朝鮮の国際的情勢というのもありますか?」
古屋担当相
「あります。その通りだと思います。中国が非常に厳しい、アメリカも厳しいという情勢、国際社会が北朝鮮に厳しい。日本の国内についても安倍総理がそういうスタンスをとっている。これは拉致問題を解決するということを内外に言わざるを得ない状況になってきた。だから、これだけはっきりしてきたんです。全ての日本人を対象にした調査をして、取り組むというような合意をするようになった背景があると思います」

全面調査で進展なるか
反町キャスター
「今回、権限の強い調査機関をつくることについては、どのように評価していますか?」
古屋担当相
「これは向こうもしっかりと、そういう意味で合意をせざるを得えなかった。要するに、全てのセクションに対し、権限のある人間が入った組織をつくるというところまできたわけですね。これは評価しても良いと思いますよ」
反町キャスター
「金正恩第一書記からすると、自分の代ではないから、自分の代で解決するのはやりやすいという意見もあります。いかがですか?」
古屋担当相
「それもあるでしょうね、確かに。金正恩氏は若い世代ですし、自分が拉致を実行したわけではないというのはあるでしょうね。いろんな要素ありますよね。私が直接聞いたわけではないので、とても正確にはお答えできませんが」
反町キャスター
「今回の調査の対象はどこまで入りますか?」
古屋担当相
「(特定失踪者)700人の中には(警察庁が
「拉致の可能性を排除できない」
としている)860人はほとんど入っています。まさしく文言通り言えば、全部入っています。全ての日本人というように書いてあります。むしろボールは北朝鮮にあるんです。だから、全て調査するというのは北朝鮮にあるんですよ。北朝鮮がその調査をしっかりしなければいけないということですね」
反町キャスター
「どこまで白黒をつければ、日本は納得するということを北朝鮮側に見せないといけないという方もいますが」
古屋担当相
「おっしゃる通りです。何せ我々は、ボールは全て向こうにあるんだ。だから、全ての拉致された被害者のリストを出すということが、彼らの責務になっているわけです」

実効性をどう担保するか
反町キャスター
「スケジュール感は?」
古屋担当相
「ダラダラやることは許されないということも官房長官はおっしゃっているんです。だから、できるだけ早く、ダラダラやる必要はない。だから、協議が始まったら我々も厳しくそのへんは追及していきます。それは、今後の交渉の具体的な中身に関することですから、現在どうなるかということは、私の口からは言えません。ダラダラやることはないという官房長官がおっしゃったことは非常に良い言葉だと思います」
反町キャスター
「一発回答はないですよね?」
古屋担当相
「現在の北朝鮮の状況とこれまでの状況は客観情勢も大きく変わってきている。北朝鮮ならではの問題。それから、世界各国の北朝鮮を見る厳しい目。我が国の国内の体制、全部が変わってきているんですよ。ですから、これまでは確かに3回騙されたとか、4回騙されたと言う方がいますが、過去はそうだったかもしれない。でもよく考えて見れば毎年政権交代していますからね。それはある意味、北朝鮮が足元を見るということはあったかもしれない。でも、現在はまったく体制が違いますから」
反町キャスター
「1年以内にある程度の形がついた場合には、日朝平壌宣言ではないですが、国交正常化交渉になる?」
古屋担当相
「平壌宣言というのはしっかり生きていますから、拉致、ミサイルを本格的に解決することによって国交正常化を目指していくということですから。それが最終ゴールですから。大前提が拉致問題です」

制裁一部解除で進展は
反町キャスター
「朝鮮総連ビルについては?」
古屋担当相
「それは前の3月30、31日にこれは出ていますよ。だけど、日本は三権分立の法治国家でありますから、裁判所が現在そういう判決をしている以上は、それを政治の場からいろいろものを言うことはできません。これは徹底して、その話はしています」
反町キャスター
「それでも言ってくるということは?」
古屋担当相
「大変にあそこは北朝鮮にとって大切な場所だということですよ」
反町キャスター
「どうにかならないものですか?」
古屋担当相
「日本は法治国家ですから。昔、超法規的措置停止なんていうのもありましたが、これは憲法ですからね、不可能です」
反町キャスター
「日本側の姿勢が変わらないということも(北朝鮮は)わかっている?」
古屋担当相
「わかっていますね。と言うのも、今回合意の中に入っていますね」
反町キャスター
「今回の合意の中には、在日朝鮮人の地位に関する問題が入っています。交渉の過程の中でどういう形になるのですか?」
古屋担当相
「これは日朝平壌宣言がきちっと最後のゴールまで到達すればそうなるわけです。実は私5月22日に日朝首脳会談10周年に対しての古屋圭司拉致問題担当大臣談話ということで、これは英語、ハングルでも書いて、国際社会に発信しましたけれど、最後にこのように示してあるんです。『拉致問題解決に向けて真剣かつ具体的な話し合いに応じるよう強く求める。そのようにすることで北朝鮮が尊厳をもって我が国を含めた世界の各国との融和を達成する端緒とすることができるのであります』と、ここに尽きるんですよ。これによって北朝鮮のそういった気持ちというのも、ここに包含されているということです。だから、あくまでもこれは、最後のセンテンスは北朝鮮に対するメッセージだと思います」
反町キャスター
「経済制裁の一部解除の話が出てきました」
古屋担当相
「これは行動対行動という原則はあります。私は常に申し上げているし、それから、政府も総理も申し上げています。行動というのは調査を開始するだけでは、組織をつくりましただけでは具体的な行動にはならないでしょう。しかし、今回の合意の中身は全てのセクションにおいて権限を持った組織が、全ての日本人問題について具体的に調査し、もしそこで判明した部分については逐次日本に報告をして、もしそこで拉致被害者が判明すれば帰国に向けた手続きをとりますということまではっきり書いてあるわけですね。実際にその作業が始まるということは具体的な行動対行動ということであると思います」
反町キャスター
「報告の内容次第によってはもとに戻すという理解でよろしいですか?」
古屋担当相
「これは今日、官房長官が会見でも言ったとおり、もし不誠実な対応だったらそういうこともありですね」

全面解決の道筋は
反町キャスター
「核とミサイルの問題が国際的問題で、優先すべきであって、拉致問題だけで日本が北朝鮮と話を進めることは、核とミサイルの話の妨害になるのではないかという話があります」
古屋担当相
「そういう議論があることは承知していますが、日本はそういう考えをとっていません。日本は拉致、核、ミサイルを包括的に解決するということが政府のスタンス。しかし、日本と北朝鮮の間に拉致問題という2国間の、国民が非常に関心が高い、なおかつ政府としても最優先の課題を抱えている。交渉の入り口において2国間で拉致問題の解決に向けて積極的に交渉を始めるということは、アメリカも了解しています。昨年、私は政府主催のシンポジウムやった時に、アメリカの政府関係者とも会って、このことをはっきり伝えました。その時点でその考え方については彼らも了解をしています。ですから、結果としてこの交渉をしていることが核、ミサイルの解決につながっていくわけでありまして、私が10周年の時に言ったように、そういう行動をとることが世界各国との融和を達成する端緒になるということであります。私達はそういう考えをとっています」


後編

中国の司法はリスクを考える 相次ぐ対日民間賠償訴訟
佐々木キャスター
「先月、中国上海の裁判所による、商船三井の運搬船の差し押さえがありました。さらには第二次世界大戦中の強制連行を巡る日本企業への損害賠償請求など、対日訴訟が相次いでいます。そのような中で、中国司法の現状と対策について検証をしていきます。最近の中国における司法を巡る動きですが、まず先月、船舶の差し押さえが起こりました、商船三井の、戦後補償を巡る問題だけではなくて、今年に入ってから、たとえば、2月には三菱マテリアル、日本コークスに強制連行に対する損害賠償と謝罪を求めて、3月に、この提訴が北京の裁判所で受理されています。他にも、三菱マテリアル、日本冶金工業など戦時中の強制連行を巡り、日本企業が中国で提訴されるというのが相次いでいるのですが、なぜ今年になって、増えているんだと思いますか」
柯氏
「そうですね、日中関係を振り返ってみれば、とても良かった時代、かつて、こういった訴訟というのは、まず表に出てこないわけです。ですから、中国を、よく言われる、法治国家か人治国家かという議論がありますが、法治国家でもない、人治国家でもない、党治国家です」
反町キャスター
「党が治める?」
柯氏
「はい、そうです。だから、中国共産党と日本との関係がとても良かった時代は、水面下で根回ししながら収めていくわけですが。振り返ってみれば、小泉政権以降の日中関係が決して良くないわけですけれども、安倍政権になってから、習近平政権からみると、切れるカードが少ないわけですね。対日的に切れるカードというのが。だから、ここでは、人治国家とよく外国から批判されるわけだから、司法でもって、我々は法治国家であるとプロモーションができるとともに、やり返す十分なカードとして使えるわけです。だから、反論できないだろうと、事実だし。ですから、私は日中関係が悪化すればするほど、問題、こういう司法のリスクを含めて、いわゆる日中の間のいろんな問題、トラブルが多発してくると思います」

中国司法は独立しているか
反町キャスター
「柯さんが法治でも人治でもなく党治だという、その部分。中国の裁判所は人民法院という名前になると聞いているのですが、これと中国政府との距離感、独立性をどう見たらいいのですか?」
小口教授
「人民法院は、独立していると言われているんですけれども、裁判官の独立ではなくて、裁判所の独立ですね。裁判所の独立。裁判官の独立ではない」
反町キャスター
「その違いがわからないのですが」
小口教授
「裁判所、法院院長とか、副院長は、裁判官に指示ができるんですよ、中国は。日本の場合は、裁判をする人だけが独立裁判をするわけですよ。裁判所の所長が、日本の場合、裁判官にあれこれ干渉はできないんですよ。中国はできるんですよ。上級の裁判所も当該の裁判所に対して、あれこれ指示ができるんです。そういうのが中国の裁判の独立でありましてね。ただ、独立といいましても、まず全人代という権力機関がありまして、その下で統制、監督下に置かれるわけですから、服従するわけですよね。重要な案件は、裁判所の中に、裁判委員会がありまして…」
反町キャスター
「これは何ですか?」
小口教授
「これは重要な案件について、非公開で当事者を排除しまして、具体的な決定を下すんです。そこで」
反町キャスター
「それは要するに、いわゆる公になる公判とは別のところで」
小口教授
「全く別です。別のところで」
反町キャスター
「この重要な案件は、誰が決めるのですか?」
小口教授
「法院の院長ですね。院長が判断をする」
反町キャスター
「決めたら、そこから先はブラックボックスになっちゃうわけですか?」
小口教授
「そうですね」
反町キャスター
「そうすると、その裁判委員会のメンバーは誰ですか?」
小口教授
「それは、一応公表されていますが、詳しいことはわかりません。主だったのは、法院の院長とか、副院長とか、主だった裁判所の幹部ですね」
反町キャスター
「たとえば、柯さんが党治だと、共産党の党による支配という意味です。裁判委員会によるブラックボックスの中の決定というのは、党の意向を強く受けたもの?」
小口教授
「当然、党の意向が裁判委員会に反映されるわけですね。ちなみに、党自身は裁判所に干渉できるんですよ。党の指導ということで」
反町キャスター
「人事権も、指導権も持っているのですか?」
小口教授
「中国憲法は、裁判の独立といいまして、行政機関と社会団体と個人の干渉は許さないと言っている。それを言っているということは、党はできるということを言っているんですよ」
反町キャスター
「その意味で、たとえば、先ほど紹介した対日賠償訴訟がたくさん出てきているんですけれど、これは訴えるのはいいにしても、受理されたということは、受理の背景には共産党の党中央の意向、ないしは地方の党組織かもしれません。その党の意向はそこに当然あると思ってよろしいわけですよね」
小口教授
「そうでしょうね。そう思いますね」

商船三井裁判を検証 中国司法における時効とは
佐々木キャスター
「商船三井の事例から中国の法律、裁判の特徴を見ていきます。商船三井の船舶が差し押さえられるまでの経緯、きっかけは日中戦争勃発前まで遡ります。1936年に中国の企業が日本の海運会社に2隻の船を貸し出しました。そのあと、船は旧日本軍に徴用されて、そのあと沈没してしまいます。時は流れて、中国企業の経営者の親族らが船の賃料が支払われなかったなどとして1970年に日本で裁判を起こすのですが、この訴えは棄却されています。1988年、上海裁判所に損害賠償訴訟を起こします。ここからさらに時は流れて、2010年に商船三井側におよそ29億円の支払いを命じる判決が確定しました。その後の和解交渉が合意に達さなかったために、今回の差し押さえに至ったと、中国側は主張しています」
反町キャスター
「今回の裁判のポイントを説明いただけますか」
小口教授
「要するに、これは商船三井側が抗弁として、主張した点なんですね。3つあるのですが。主要は2つありまして、時効は時効だと。これは民事事件ですから、損害賠償請求権は時効がありますので、時効がくれば、できなくなるわけですね。 1936年に、没収されているわけですから、船を。権利侵害が36年だとすれば、当然、消滅時効が成立しているのではないかと。日本の法律では10年で消滅時効ですから、1946年か1947年にはもう時効は成立しているわけですよ。請求できないはずだと。東京地裁もそういう判断をしたわけですね。中国はどうしたかといいますと、1986年まで民法はなかったんです、民事法が。市民の民事の法律がなかったんです。ようやく1986年につくられまして、民法通則というんですけれどもね。その中で、時効成立制度ができまして、時効は2年間だと。2年以内に訴えないと、訴えられなくなりますよ。ただし、過去の事件については、1987年の1月1日から2年以内であれば、訴えることができますよということを、最高人民法の司法解釈というのですが、出したんです。それに基づいて1988年に原告が訴えたんです」
佐々木キャスター
「商船三井はぎりぎりその1988年にかかったということですね」
小口教授
「ええ。商船三井の前の会社は、日本海運といいまして、日本海運の前の会社は大同海運なんですよ。大同海運時代の話なんですけれども、訴訟の時の最初の被告は、日本海運だったんですよ。日本海運が商船三井に吸収合併されたものですから、商船三井が被告となったという経緯です」
反町キャスター
「1986年までは中国において民事における時効という言葉がなかった」
小口教授
「規定がなかったんです。中華人民共和国のもとでは」
佐々木キャスター
「どこまでも遡れちゃうということですか?」
小口教授
「時効がないから、そういう規定がないから訴訟できないんですよ」
反町キャスター
「え!? 民民の損害賠償裁判ができなかったのですか?」
小口授
「ええ。法律がないわけですから。1986年頃までは、基本的に…」
反町キャスター
「1986年に時効を設けたよと。それまでの分は2年以内にやりなさいよということ」
小口教授
「商船三井はそれですね」
反町キャスター
「1986年以降に発生した分についてはどういうルールなのですか?」
小口教授
「別のルールだと思うんです。それが最近の問題なのですが、1995年に全人代におきまして、国務院副総理の銭其深さんという方が、中国民間人の側からの日本政府と、日本の企業に対する戦争に伴う賠償請求はできるんだということを初めて明言したんですよ。日中共同声明が1972年です。日本側はそれによって賠償請求はなくなったという立場をとっているのですが、中国側は、いや、民間人側からの賠償請求はできるんだと公式に表明しまして、それが時効の起算点だ。そこから10年以内であれば訴えることができると。ただ、10年という根拠はちょっと複雑なのですが、もう1つありまして、それは日本軍が中国でいろんな事件を起こした時も、中華民国ですから、中華民国の時代の法律が根拠法になるんですよ。中華民国の法律によれば、時効は10年なんですね。その10年の起算点をどこでとるかという時に、時効について一番重要な条件はこれです。客観的に賠償義務者に賠償請求する可能性は存在するという時点から始まるという、起算点が」
反町キャスター
「どういう意味ですか、それ」
小口教授
「先ほど、1995年に銭其深さんが賠償請求できるんだと明言したわけですよ。そこから可能性が存在するんだということを原告側も確認できたんですね」
反町キャスター
「賠償請求を提起する可能性が存在とはどういう意味ですか」
小口教授
「それまでは訴えが出てくるかどうかがわからなかったんです。請求できるかどうかわからなかった。1972年の日中共同声明がありまして、賠償請求どうするかという問題があったわけですね。それについて中国側はできるんだということを明言したのが1995年。そうなると当然できるんだということで、ここでいう提起の可能性が存在すると」
反町キャスター
「でも、1995年だったら、10年といったら2005年、もう終わっているのではないのですか?」
小口教授
「はい」
反町キャスター
「現在になって、まだいっぱい出てくるというのはどういうことですか」
小口教授
「そこはちょっと不可解ですよ。どうやって説明するのかはわかりません」
反町キャスター
「これだけ見ていると、かつて被害を受けたと自ら思っている人達が、俺は訴えたい、ないしは被害を受けたと思った時点から10年とか、そんなことではない?」
小口教授
「そんなに単純ではありません」
反町キャスター
「1995年から10年が経った2005年以降、先ほどの日本冶金の話とかは法的な根拠というのは?」
小口教授
「私からしますと、この考え方は、中国の民法学者が連名で出している考え方です。当然、その背景には、党の意向も反映しているわけですから、それとの基準でいくと、1995年が起算点ですから、10年となりますので、どうして、これができるのかなと」
反町キャスター
「そこも党治主義が出ているのかも。党が支配しているのかもしれない」
小口教授
「それでいったとしても、この基準を明言していますから、現在の時点で請求できるというのはちょっと私には結構難しいなと思いますね」

不可抗力による免責とは
佐々木キャスター
「商船三井裁判のポイントの2つ目、不可抗力による免責は成立するか、否かというのは、これはどういうことですか?」
小口教授
「商船三井の抗弁の3つ目の理由が、1936年に賃貸借契約を結びましたが1年契約ですね。1937年の時点で日中戦争に入りまして、日本海運が2隻の船を徴用といっていますが、商船三井の言葉を使えば、捕獲されたんですよ。捕獲されたことによって捕獲は不可抗力だ、それは断りがなかったんだと。商船三井側の言い分です。不可抗力だから、我々に責任はないという主張したんですね。それに対して裁判所がどういうことを言ったかというと、商船三井がいう捕獲という事実の証明ができていない。ただし、差し押さえ、拘留という言葉、原文ですが、差し押さえも認めると。差し押さえと捕獲は違うというんです。捕獲の証明ができていないから責任は免れないという理屈を使ったんです。しかし、我々からしますと、差し押さえも、捕獲も、いずれも不可抗力に該当すると思うんですよ。そうなりますと、商船三井の抗弁は説得力があるのではないかと思います。これについて、中国の上海市の海事法院の判決は非常に弱いと思っています。この論旨は」
反町キャスター
「捕獲と差し押さえの違いが」
小口教授
「それは忖度するに、捕獲の場合には船に対する権利の移転があったはずだと言うんです、捕獲は。だから、賃貸借契約で大同海運が借り受けて、権利があるわけですが、その権利が捕獲の場合には否定されて、日本政府、日本軍に移転しているはずだと、その証明ができていない。船舶の登記もできていない。登録証もできていないではないかと。だから、移転はしていないんだという主張したんです。しかし、差し押さえは認めると。差し押さえを認める以上は、不可抗力に該当すると思いますので、差し押さえであれ、捕獲であれ、商船三井からすればそういった事由によって契約が終了させられたわけですから、我々に責任はないと主張しているんですよ」
反町キャスター
「一般的な裁判のルールにおいて、この場合の捕獲とか、差し押さえを論証する義務というのはどちらにあるのですか?」
小口教授
「基本的には原告が証明責任を負うわけですよ。ところが、今回は捕獲の証明をしなさいということで、被告に負わせているんですよ」
反町キャスター
「これはどういうことですか?」
小口教授
「証明責任を転嫁させたんですね」
反町キャスター
「原告が本来、証明すべきものを被告側に逆の証明をしろという判断をするのも、これも裁判委員会、ないしは人民法院の、いわゆる中国の裁判官が、そこまで踏み込んだ判断ができる制度なのですか。それともそこは党の指導がないとひっくり返らないのか、そこはどうなのですか」
小口教授
「そこは結構、難しい事件だと思ったと思います。だから、裁判委員会で議論すると思います。裁判委員会で。ただ、裁判委員会がどこまで関与しているかは、ケースバイケースだと思いますね」

中国での対日民事訴訟の現状
佐々木キャスター
「中国での訴訟の案件にも関わられたことがあるということですが、民事の訴訟で勝利するというのは日本企業にとっては難しいのですか?」
福田氏
「中国の法律で中国語で、しかも、交渉だって中国だし、先生がお話されていたようにルールも違うわけですね。ですから、そういう中で勝っていくというのは大変ですよね。ただ、ここは考え方だと思うんですけれども。たとえば、中国の場合ですと、私も何回も個別の案件に関わっているんですけれども、ほとんど訴訟までいっていないんです。全部和解で落ちちゃっているんですよ。要は、今回みたいな、商船三井みたいなケースは、ちょっとイレギュラーだと思うのですが、一般的な訴訟の場合は、皆さん何かしらの利害関係を求めてやるわけですよね。ですから、そこで交渉ができるということが1つ。あと労働争議も仲裁委員というのがあるんですよ。仲裁委員のところに1回入って、そこで、いわゆる自分はこういう権利があるはずなのにというようなことを社員がいいますよね。それに仲裁委員が企業の人を呼ぶわけですよ。企業の方も行って話をします。ここでこうしたらどうですかという話になって落ちちゃうんです。ですから、ここで話がまとまってしまえば、訴訟にはならないわけですね」
反町キャスター
「なぜそこで落ちるのか。仲裁委員、ないしは示談しようというところで話がまとまるのか。その理由はどうしてですか?」
福田氏
「中国の訴訟自体は、たとえば、弁護士費用も欧米みたいに高いんです。かなり高いんです。ですから、費用もかかるし、時間もかかるわけです。それで実際問題、通常のいわゆる訴訟であれば、どちらが勝つかなんてわからないわけですよ、実際は。と言うことは時間をかけて、お金かけて、負けちゃう可能性もあるわけですね。それよりどこか中間の地点で、いわゆる両方の和解ができるところがあれば、その方が合理的ではないかというのが中国の考え方だと思います」
反町キャスター
「和解の落としどころというのは、難しいですね。何とも評価のしようがないのですが、日本の企業側から見た時に、これはしょうがないなという線で落ちるのか。仲裁委員会、もっとわかりやすくいうと仲裁委員会の中立性、公平性に対する評価はどうですか?」
福田氏
「今言ったのはいわゆる労働争議の場合の仲裁委員会の話をしました。この場合について言えば労働者側が強いです。これは別に中国に限ったことではなくて、日本でも総じて労働者が強いですよね。これは払ってあげなさいとなっていく。もう1つあるのは、当然ですが、政権を保っていかないといけないので、国民に対してはいい顔をしたいわけですから」
反町キャスター
「それはどこに持っていっても、日本は損をするということですか?」
福田氏
「いや、そんなことはないですよ。先ほどお話をしたように労働争議とか、いわゆる労働者のことについて言えば、日本でやっても、どこでやっても、労働者側が強いという傾向がありますから、それはきちんと個別に話をし、落とせる話をすればいい話ですね。私もかなりいろいろ絡んできましたけれど、そんなに無理無体な要求が出てくるようなケースはありません。もう1つ言えば、企業側がちゃんとしていれば結構リスクを回避できるものが多分にありまして、たとえば、給料の未払いだとか、賞与の権利があるはずだっていうのが訴訟ですから、それがないということをきちんと締めていけば、証拠が揃っていれば、そういう訴訟には本当にならないんです。仲裁に行っても、そこの方がそれは無理だよという仲裁結果もあります、実際」

日本企業の反応は
佐々木キャスター
「最近中国の司法リスクを鑑みて、中国以外のところに進出したいというような日本企業は増えているのですか?」
福田氏
「ありますね。もちろん、司法リスクということよりも、実際に賃金が上がってきたりして、バランスが取れなくなってきている。特にかつては日本の多くの進出というのは、いわゆるコストダウンセンターとよく言うんですけれど、賃金を安くしたい、安い賃金を使って安くモノをつくりたいという進出が多かったですね。ここについていうと、もう崩壊してきている。賃金が上がっていますから。そうすると、中国ではなくて、他のところにという、いわゆる進出というのはあります。ただ、まだ依然としてかなりの投資が続いているんです。その理由は何かというと、今度は市場を狙っている。いわゆる進出。ですから、昨今の進出というのは販売ですとか、いわゆるサービス業ですとか、飲食ですとか、これについては勢いが出ているんです。ただ、金額が工場の設備投資よりも小さいですから、トータルとしては下がっているんですけれど、件数ベースで見るとあるという現状はありますね」
反町キャスター
「ここまで議論してきた、いわゆる司法リスク、裁判になったらやばいから、中国にはちょっと進出をやめようというファクターは大きくない?」
福田氏
「ないと思います」
反町キャスター
「それは本当にないと?」
福田氏
「はい」
反町キャスター
「たとえば、ニュースでよく、今日も扱ったああいうケースというのは、はっきり言ってしまうと、マスコミが扱うからでかくなるのであって、実態のビジネスにおいては、それは対中進出の障害にはなっていないという理解でよろしいですか?」
福田氏
「はい。いわゆる、今お話になったような訴訟リスクというのは、なっていないです」

日本企業が気をつけるべきこととは
反町キャスター
「となると、これから中国に進出しようとしているところ、ないしは、既に進出している、そこで事業展開しようとしているところに関して気をつけるべきことはどういうことになるのですか?」
福田氏
「まず基本的なところで話をすると、当然進出をするためには、たとえば、単独100%資本で出るのか、合弁で出るのかといろいろありますよね。たとえば、100%で出る場合はいいんですけれども、合弁の場合は全会一致項目と言うんですけれども、いわゆる取締役、中国では董事と言うんですけれども、取締役の全員の一致がないと決められない項目というのがある。たとえば、大きな資本の変更ですとか、そういうような、経営上の重大項目については全員一致でないと決められないんです。と言うことは、どういうことかというと、合弁先は必ず1人取締役が入っているはずですから、ここが反対したなら、できないわけですね」
反町キャスター
「それは多数決ではないんですね」
福田氏
「多数決ではないです。ですから、日本の企業はすごく脇が甘くって、たとえば、パーセンテージを持っておられるからいいだろうというようなお考えになりがちですよね。違うんです。90%持っていてもダメですよ。たとえば、重要項目だけですよ。と言うことはどういうことが起こるかと。たとえば、最悪解散をする、止めてしまうという選択肢を、いわゆる合弁の場合には自分達だけでは決められないということですね。では、どうするかという話ですね。1つは、単独資本でつくってしまえばいいわけですよ」
反町キャスター
「それはできませんよね?」
福田氏
「できます。制限職種以外はできます。いわゆる制限職種というのがあるんですよ。やっちゃいけない職種。でも、現在はほとんど一般的なビジネスについてはだいたいできますので、ですから、単独で日本独資ということをよく言いますが、独資でつくってしまう。そうすると、いわゆる経営の重大な決定については、自分達でだけでできるわけです。ですから、言い方が悪いですけれど、止めることもできるし、決めることもできる。次の制限職種でどうしても合弁で出なければいけないケース。こういうケースについて言えば、当然合弁契約だとか、定款だとか、こういうものがあるわけです。ここをきちんと詰めておく。日本の企業はここも弱くって、たとえば、先ほど言った全会一致項目があるわけですから、これで一致できなかったらどうしようか。たとえば、そういう壊れた時に、どうなるのかなというようなことを全部決めておかないといけないわけですね。ところが、このお話を差し上げると、いや、これから合弁をやって、一緒にやっていこうというのに、ダメになった時の話からするのかという日本の企業は多いです」
佐々木キャスター
「後ろ向きなところはあまりは見たくない」
福田氏
「でも、この契約を使う時は、どういう時かというと、もうコミュニケーションができない状態なんですよね。要は、契約はそういう時のためにあるわけですよ。と言うことはダメになった時にどうなるかということを踏まえたうえの契約と定款を全部整えておかないといけない。ここらへんについては、日本の企業はすごく緩いんですね」
反町キャスター
「中国でビジネス展開している企業のリスクというのは、極めて日本側の企業の準備不足、認識不足に起因するリスク。そこしかないみたいに聞こえるのですが、そういう理解でよろしいですか?」
福田氏
「はい。私はそう思っています」

日本企業に必要な危機管理
小口教授
「中国には契約法がありまして、先進的です。日本以上に進んでいるんですよ。ただ、中国契約法しかない条文があるんです。先履行の抗弁権と言いまして、先に相手方が履行するまでは履行を拒むことができる。納期がきたって相手がお金を払わない限りは渡さないという、これは他の国にはない立法です。何でそういう法律をつくったか。中国社会は実はお互い、市場の信頼関係がない。信頼関係のないところで担保的な価値を持つためにそういう条項がいるんだと。その考え方ですよね。相手方を信用していないところで出てくる法律です。逆に、それは大事な規定なので、日本企業は利用すべきですね」
反町キャスター
「利用できるのですか?」
小口教授
「もちろん、約定で取り交わすんです。約定は大変重要です、中国では。裁判例を見ていますと、裁判官の判断基準は、法律はもちろんですが、約定で判断する。どういう約定になっているかということで判断しますので、日本の企業が契約を結ぶ時には、事細かに約定を盛り込んでいく」
反町キャスター
「中国に行って失敗するケースは、行った人間のマインドが甘すぎる?」
小口教授
「そういうことですね」
反町キャスター
「商船三井の件とか、何を根拠にしているのかがわからないというのは」
小口教授
「(政治マターの裁判と民民のビジネスの裁判は)切り離して考える」
反町キャスター
「民民の部分は、法整備されているという理解でよろしいのですか?」
小口教授
「日本の裁判と変わらないと思っています。実感として、言えることは全く変わらない」
反町キャスター
「中国の司法制度は危ないよ、何をやっているのかわからないから進出する企業は気をつけなさいというロジックはダメ?」
小口教授
「ダメですね。もっと契約法を勉強することです」
佐々木キャスター
「いざという時のために進出する日本企業にどんなアドバイスをするのですか?」
福田氏
「日本の対中投資は香港を除くとトップです。彼らがわざわざ外資が逃げて中国に投資をしなくなるようなリスキーなことをやるのかと言ったら、やらないと思います。そういった意味でいうとリスクはそんなには高くないと思います」

小口彦太 早稲田大学法学学術院教授の提言:『約定が大事』
小口教授
「中国は、実は法律も整備されていまして、裁判において裁判官の判断基準は、法律と約定です。約定を第一に考えまして、約定によって判断しますので、非常に具体的で細かな約定を取り交わすことが大事ですね」

福田完次 ㈱グラブポット代表取締役の提言:『ビジョンと知恵』
福田氏
「そもそも社会体制が違って、文化が違う国に行って儲けようという話ですから、難しいのは当然ですよね。その中で、どこのマーケットで、どういうことをやって、モノづくりだったらどこでやってということを考える時代になっていると思います。そういう意味ではビジョンを持つということ。仮に、ビジョンを持ったうえで、この国で市場を獲らなければいけないということであれば、どうやって解決するのかという、今度は知恵の問題になると思うんです。当然、中国は中国の中で法律とか、いろんな問題をやっているわけですから、知恵を借りる。自分達で学ぶ。こういうリスクというのは十分解決できる範囲のリスクだと思っています」

柯隆 富士通総研経済研究所主席研究員の提言:『知己知彼 護送船団』
柯氏
「これは、孫子の兵法に書いてある言葉で、我も知る、相手も知る。これは重要なわけです。相手を知るというのはリサーチするので、個別企業の場合は、なかなかきちんと対応しきれない部分が実はあるわけですよ。日本にはいい言葉があります。護送船団。特に中小企業の場合は1社の力が限りあるものですから、護送船団でもって情報収集して、対応する。場合によってはロビー活動をする、中国政府と交渉する。これは解決の出口を導き出す重要なポイントの1つだろうと思います」