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2014年5月29日(木)
クルマの安全と市場力 日米欧の狙いと勝算

ゲスト

清水和夫
モータージャーナリスト
中西孝樹
ナカニシ自動車産業リサーチ代表 アナリスト
井上隆一郎
東京都市大学都市生活学部教授

自動車の安全基準をめぐる 日米欧の世界標準戦略
島田キャスター
「TPP交渉日米協議のポイントとなる安全基準についてですが、日本の安全基準とはどういうものなのでしょうか?」
中西氏
「まずどちらの安全基準が正しくて厳しいかといった次元の話ではないというか、枠組みを整理するところから私は始めるべきではないかと思います。これが実は1958年に58年協定という相互認証をやろうという仕組みをつくりました。日本、ヨーロッパというのは政府の認証制度ができていますので、認証をとったものはお互いに認め合うということでお互いに流通をやりやすくするという仕組みをつくりました。ところが、その時に問題だったのがアメリカですね。アメリカはいわゆる政府の認証制度というものがなくて個人の認証でしたので、この58年協定に参加できなかったと」
反町キャスター
「アメリカには安全基準について政府が決めるものがないのですか?」
清水氏
「基準はあるのですが、政府は許認可権を持っていなくて、メーカーが自ら認証しなさいと。それから、あとはリコール制度と刑事裁判で罰するよと。ですから、非常に市場原理に基づいて基準はつくっていますけどね。お互いにメーカーに責任があるのですが、政府が許認可権を持っていないと。ですから、メーカーが自らアメリカ政府が掲げたハードルに対して安全基準を超えるような安全な車を開発する。ただ、抜き打ちでテストしますから、基準に満たされていなかったらリコールになって、もしそれで被害にあった方がいたら禁固刑500年とか。ですから、裁判での厳しさが縛っていますし、メーカーは自らアメリカの基準を十分超える安全な車をつくっていかないといけない。あとは情報公開が進んでいますので」
島田キャスター
「アメリカが日本に安全基準をゆるめなさいと言っているのではなくて、仕組みが違うんですね」
中西氏
「そもそも仕組みが違うわけです。そういう中で、98年協定をつくりました。そういった状況の中でも、総合認証はできなくても世界の基準をできるだけ調和させていこうと。その調和させた中で、政府間の協定で自由に流通できる状況をつくろうというのが98年協定。ここに中国、インドという大きな新興国が入っていて、アメリカは最近韓国とFTAを結びました。ここで韓国はアメリカの安全基準を満たしているものは自由に流通できるように変わってきます。それと同じものを今回TPP交渉で日本に同じような状況を求めていると。これが今回の話し合いの大きなポイントになっています」
島田キャスター
「日本はどういう戦略で交渉していくと思いますか?」
中西氏
「日本にとって自動車産業はまさにキラーコンテンツとおっしゃられたように日本の国益を担った産業だと。ここは、国際競争力を維持していきたいと考えています。そうすると安全と環境というのは日本が将来の競争力を支配する非常に重要な要素。その両方とも58年協定の仕組みの中では、そういった安全基準の方向性を決めていく、そういう枠組みになっていますので、できるだけ自分達が優位になる国を囲い込んで、そこで自分達が主導権をとって、環境と安全の技術で競争力をつくっていくというのが、これが国家戦略で新成長戦略の中でも強く謳われていて、環境安全を中心とした技術のディファクトをとっていくと。そういう戦略の中で国家戦略は向かっているのですが、そこにアメリカが目をつけ、日本にとって痛いところを突かれていると思うのですが、なかなか飲めない条件です。そういう条件を突きつけながら。骨抜きにする1つの方法ですから、囲い込みに対する牽制になるわけですね。それによって米国にしてみればTPP交渉の中でより有利なものを引き出したいと」
反町キャスター
「アメリカとの安全基準の攻めぎあいは、中国、インドでイニシアチブをとる要素になると思いますか?」
井上教授
「そこは、私は切り離して考えていますね。中国、インドでの競争と、今回の問題とでは別次元だと思います。つまり、ここで一歩譲ると、堰を切ったように日本市場は大丈夫でしょうけれど、中国とインドに流れ込むという、その姿を想定しにくいなと思っています。市場の競争基準は安全基準だけではないですよね。消費者のニーズにどうマッチングしているかということの方が大きく優先されるはずですよね。とすると、そこはあまり大きく壁を立てて考えるよりも柔軟に対応した方が日本の自動車産業にとっては有利ではないだろうかと」
中西氏
「現在の安全の議論だけであれば、アメリカの車が日本でそんなに売れるわけでもないし、日本にとって失うものもないかもしれない。ただ、日本が技術立国をして加工貿易で生きていこうということで、将来、安全なり、環境、こういった性能を持った車で世界に競争力をきっちり確立していかないとダメだとすると、58年協定の中で中国、インドにその中に入ってきてもらい、東南アジアも中に入ってきてもらい、そこで世界の標準をつくりながら、日本が技術のスタンダードを先行していく。それが将来的に水素をベースにする燃料電池車、こういったところで有利な戦いをしていく。先を見た戦略のうえではなかなか日本としては譲ることができない、難しいところをアメリカは突いてきている」
清水氏
「井上先生がおっしゃるように、譲ればいいだろうと言いますが、日本は軽自動車がありますから、3.5tの車が入ってきて、日本の事故形態で一番多い、歩行者に関わる死亡が2000人くらいいるのですが、この人達に対して歩行者保護のない車が入ってくるということはアメリカが前例でやったからいいよねということで、新興国の自動車メーカーはアメリカ車が入っているなら歩行者保護はやっていないけれど、中国車を入れてよという話になりますから、ここは絶対に日本の社会の安全を守らなくてはいけない」

日米欧自動車の国際競争
清水氏
「1958年はちょうど日本が軽自動車をつくり始めた時期です。日本はアカデミーも大学研究機関も自動車メーカーも生まれたてでしたから、目指すものはヨーロッパ基準を目指し、『坂の上の雲』のようにヨーロッパに追いつけ追い越せできたんですね。それが1970年代を経て1990年代に安全基準が世界レベルになってきたと。あともう1つ押さえなければいけないのが新興国の安全基準は、仮に安全基準がない国であっても、ユーロNCAPの情報が全世界で回っていますし、ヨーロッパ基準がルール基準として世界の安全環境基準に浸透している事実があるんです。唯一アメリカを除き、ヨーロッパ基準が中国も、インドも、そこで売る車がヨーロッパ基準でつくられているんです。ところが、アメリカと言っても、キャデラックのようなグローバルカーはヨーロッパにも輸出しますから、ヨーロッパの基準でつくっている。日本に入ってくるキャデラックだって、ヨーロッパに出していますから、日欧基準でつくられている。だから、現在アメリカ車というのはアメリカでしか売られていないような…」
反町キャスター
「アメリカの自動車メーカーは、アメリカ国内向けの車と輸出向けの車とでクオリティが違うのですか?」
清水氏
「アメリカだけでしたら歩行者保護をやっていなかったら、日本とヨーロッパに出せないですからね。キャデラックはグローバルカーなのでどの地域にも出せる。ただ、アメリカでどういう事故が起きているのか。日本の事故形態とアメリカの事故形態とヨーロッパの事故形態が違うので、それぞれの国に合わせて基準を出してくると」
島田キャスター
「中国の市場の伸びは加速化していくと思いますか?」
中西氏
「需要が完璧に先進国から新興国にシフトしていると。実は先進国の需要レベルというのは、リーマンショックの前の75%くらいしかないんですね。新興国は中国が牽引する形で倍になっていると。ですから、新興国を制していくものが、これからの自動車の大きな覇権を握るという時代が来ています。ところが、ここで非常に日本車が持っていた競争力が世界で減衰しているんですね。1つ認識しなければならないのが欧州メーカーで、自分達の戦略の中で標準化、あるいはこういう基準をちゃんとつくりながら、そこに新興国、特に中国を囲い込んでいくんですね。ですから、そういう意味において、中国はいろいろなキャスティングボードを握り始めていると言えると思います。これは世界の自動車販売台数の推移を示したもので、ちょうどリーマンショックに、それ以前は基本的にアメリカのGMを世界の覇権の姿として一番アメリカ中心に構造があったと。それにトヨタが追いついたというのがリーマンショックの直前だということです。リーマンショックの前の世界というのはアメリカを中心とした覇権構造に対して2番手メーカーがあって、3番手グループがあるみたいな。世界にアメリカを中心としたヒエラルキーがあったんですね。結果としてリーマンショック以降、新興国を中心に世界の需要が牽引された。その結果、現在何が起きているかというと、まずフォルクスワーゲンが大きく伸びた。2番手グループから世界第2位に浮上している。ルノー日産が、これは日産が中国で非常に強いわけですが3番手グループに。トップグループはもう団子状態です」
反町キャスター
「中国市場に強いメーカーがシェアを伸ばしている?」
中西氏
「おっしゃる通りですし、かつ中国の需要を精巧に取りこんでいる。こういった欧州戦略がリーマンショックを挟んで世界の競争関係を大きく変えたということが非常に重要なポイント。今後も大切なキャスティングボードを中国が握るというようにお考えになっていいと思います」
島田キャスター
「中国の消費者はどういうことを重視して車を選ぶのですか?」
井上教授
「ブランド別に欧州ブランド、日本ブランド、韓国ブランド、米国ブランド、そして中国の現地ブランドをブランド別に車の評価を消費者に聞いたもので、日本を基準化して見たものです。日本車の評価は決して低くないんです。欧州車がダントツに高いのですが、10ポイント近く日本車より上にきていて、高いんですね。それに次いで日本車。実は米国ブランドというのは都市部でそれほど高い評価は得ていないという構図になっていますね。注目していただきたいのは韓国車ですね。韓国車は既に98ポイントという評価を得ているんです。これはほぼ100ということですよね。現代自動車がリーマンショック以降急速に伸びてきた。伸びてきた理由が米国市場、中国市場ですが、中国市場での評価がこういう評価ですから、日本車にも負けない評価ですから。安くて品質が良い評価ですね。ですから、当然そういう評価をされれば、市場でのシェアは急速に伸びてくる。全体での評価も伸びてくる。そういう仕組みになっていたということです」
反町キャスター
「中国において欧州車の評価が高いのはどういう理由だと思いますか?」
井上教授
「まず欧州車というのは、フォルクスワーゲンを考えてください。フォルクスワーゲンは1980年代に中国に進出しているわけです。現地で生産をして、トップの自動車メーカーに君臨していくわけですよね。この実績、歴史的な蓄積がまずはあるわけです。たくさんつくった車が地方で売れ、都市でも売れ、高い評価を受けてきたと。この実績が背後にあって欧州車が10ポイント近いアドバンテージを持っているということになります。日本メーカーは、アメリカ、ヨーロッパでの評価というのは確立していますが、中国ではまだ新参者ですよ。どちらかというと21世紀になってやっと本格始動したというような、そういう歴史的な20年近い浅さがあるわけですね。だから、その中ではよく善戦していると言っていいと思います。この同じ調査の中で、品質を基準に選びますか、耐久性を基準に選びますか、価格を基準に選びますかという調査をしているんです。それで見ると日本や欧州のユーザーと同じように品質、耐久性、機能、こういったもので上位にくるんですよ。価格はもちろん重視していますが、その次くらいにくるんです。中国だからといって安ければ売れるという感覚は既に都市部ではなくなっている。内陸ではわかりませんが。ここに出ているのはお話したアンケートの集計結果ですが、真っ先に来るのが走行性能、安全を無視しているかと思うとそうではない。次に安全性、燃費効率、その次に価格です。耐久性というのはそのあとにくるのですが、上位にあります。ですから、これだけ見たら中国というところを仮にはずして見てみると、日本の市場の調査ねというくらいに見えるほど、そんなに差はないんですね」

どう活かす日本の技術 次世代自動車と安全基準
島田キャスター
「新しい安全基準の動き、日本は積極的な動きをこれからとっていこうというこの意欲が実るかどうかなのですが、その点はいかがででしょうか?」
清水氏
「2000年頃に、たとえば、トヨタとGMが水素燃料電池をベースにして技術提携したり、ダイムラーとフォードがファイナンスを組んだりしていましたので、ずっとこの課題は協調してやっていこうと十数年前から続いていたんですね。ところが、一部で最近テスラというメーカーが出てきて、リチウムイオンのバッテリーカーが出てきたので、水素でいくよりも、まずバッテリー。水素は10年あとでもいいよねと少しヨーロッパが変わってきたんですね。ですから、現在水素派は日本のトヨタとホンダ、あとはGMと現代。実は、ルノー日産もやっていたのですが、ダイムラーと現在技術提携が始まって、日産のスカイラインにメルセデスベンツのエンジンが載る時代になったので一緒にしようということで、どちらの技術が使えるかはわからないんだけど、現在一番積極的なのは、トヨタ、ホンダ、GM、現代。GMと原理主義のホンダが水素燃料電池で手を組んじゃったんですね。ですから、4強と言われていますけれども、そうすると日本のメーカーが2つありますから、非常にここは競争領域でチームジャパンをつくると、世界に出て行けるということで、2年、3年前から経済産業省を中心にグローバルに動いていました」
反町キャスター
「日本がとれる場所なのですか?」
中西氏
「日本は世の中が電気自動車に移行してしまった時、国内に有力な加工貿易事業を維持できるのかということを考えた時に、必ずしも日本の社会構造、産業構造にとって、アドバンテージになる仕組みがないと思うんですね。日本の自動車業界というのは基本的に摺り合わせというモノづくりのところに強みがあり、そういう力の延長線上に見あった社会というのは、実は非常に複雑な擦り合わせを必要とする燃料電池車というのが、日本にとって勝ちパターンが見える車ですね。電気自動車になると、組み合わせ方がシンプルです。複雑化にいってくれるのか、シンプル化にいってくれるのか。日本にとっては複雑化にいってくれた方が都合がいい話です。あとは原材料の問題も、なかなか日本には原材料がない。ただ、水素はつくれますので、重化学工業も維持できる。日本にとっては国家戦略上都合の良い、これに向かっていきたいという自動車メーカーの思惑も…」
反町キャスター
「日本だけ特に有利とは聞こえないのですが」
中西氏
「相対的な競争感を考えると、日本にとって有利な戦いになると思います」
井上教授
「シンプルなものは、確かに新興国でうける余地はあるんですけれど、日本メーカーにアドバンテージがないんですよ。たとえば、現地のメーカーも、極端に言えばつくれるようになってしまう」
反町キャスター
「では、ワールドシェアを狙うのではなくて、いわゆる富裕層に対してのシェアを狙っていくという意味ですか?」
中西氏
「そうではなくて、燃料電池車が世界の次世代型の自動車として、覇権をとってもらえるような競争力のある車に育てていくわけですから、結果として日本のモノづくりも守れるし、日本車の繁栄も維持できる。ただ、燃料電池車が本当に覇権をとる普及時期はいつなのか…」
清水氏
「今年の末にトヨタ、ホンダあたりから来年にかけて出ていきますので、本当は2002年に小泉改革の時に1回納車しているんですね。ただ、それははっきり言って、失敗したのですが。当時1台1億円と言われていましたから。ですから、それが十数年経って電気自動車より、ちょっと高いぐらいで手が届くところまできた。あとは水素スタンドのインフラ整備が進めば、好き者はここにいくのではないか。大事な点は、スタックは水素で電気を発電します。私の家にもあるのですが、家庭用の発電としても使えるんですね。ですから、自動車で普及してコストが下がると家庭でも使えますから、これは非常に有力ですね」
中西氏
「2015年は手の届く燃料電池車が発売される元年です。プリウスが発売されたのは1997年。ここまでくるのに17年かかっています。普及カーブを考えれば、燃料電池も2015年が元年なら、2030年の話になってくるわけですよ」
清水氏
「現在やっていないと、2030年に対して、育てる時間がかかりますから、それを最初に日本がイニシアチブをとる。水素は複雑なのと水素燃料電池自動車はハイブリッド。ですから、リチウムイオンのバッテリーも載っているんですね。ですから、ハイブリッドがコア技術になっているので、そのうえにのせていきますから、日本は安くつく。欧州メーカーが水素燃料電池をやろうとすると、基盤技術としてハイブリッドが必要になる。一からのスタートになる」

クルマの安全と国際戦略 アジア市場と日欧米競争
島田キャスター
「もう1つ日本がイニシアチブをとっていきたいのが自動運転。事故をどのように回避していくか。どういう性能が求められているのですか?」
清水氏
「ミリ波レーダー、カメラ、様々なセンサーを使って、実際に車の前、あるいは後ろにリスクを検知してドライバーに教えて、ドライバーがブレーキを踏まなかったら、最後は自動的にブレーキを踏んじゃうよと。それが既に日本ではかなり売れているんですね。そういった技術を積み重ねて進化させていく。ただ、無人車まで考えていなくて、人は最終的には監視役として乗っていて、高速道路の限定された中だったら東京から京都まで高速道路をハンドルもアクセルも触らないで行けるぐらいの技術は実現し始めた。安倍政権は2020年、東京オリンピックを一里塚とし、内閣府の中に横串を通すSIPという戦略的イノベーションプログラムを立ち上げて、そこに予算をつけて、いろんな次世代の戦略科学技術テーマのそのうちの1つに自動運転というのがあるんです。これは誰のために何をするのかというのが実は大事なのですが、日本においては歩行者と車の中にいる人のケガ、亡くなる死亡事故と、車外で、歩行者、自転車との比率が外の方が増えてきたんですね。高齢化社会を考えると、もっとこれから歩行者の死亡率が上がっていくだとろうと。ここに対して現在、何が対策になるかと言うと、車の方のぶつかった時の安全性だけでは、もう限界がきていますから、事前に危険を察知して、ブレーキをかけるような自動ブレーキのシステムにいこうというのが1つの大きな目的ですね」
反町キャスター
「世界に受け入れられるような条件になるのですか?ビジネスの基盤になるのですか?」
中西氏
「大変大きなビジネスになることは間違いないと思います。燃料電池の話に戻りますが、インフラをつくることがまず重要なので、そのためにまず戦略を示し、ちゃんと皆がコミットをし、投資をしていくことが成功につながる道です。いきなり水素燃料社会に飛躍するという話ではありません。安全に関しては現在ユーザーが一番敏感に反応してくるプロダクトの製品に非常に大きく関わってくる技術になっていまして、2020年ぐらいまでの高速道路の自動運転のようなレベルであれば、概ね現在ある技術でできるんですね。かつコストも1台あたり10万円もあればできる。ちょっと前にレクサスについていた自動ブレーキは85万円していたわけです。手が届くところにきていますので、そういう意味においては、今後戦い方を差別化するうえで非常に大きな力になってくる。ここでまた欧州メーカーが現在、清水さんがおっしゃられたように、ユーロNCAPの中で誰よりもはやく世界で最も厳しい基準をつくっていっちゃうんですね。現在、自動ブレーキをすれば星が増えるというのは、これはユーロNCAPの社会で自分達が有利に立って、標準化づくりも指導権が通って行く。基本的にはそのディファクトを握っていくという戦略で先を走っていますので、ここは正直言ってまだ大きな未知数を持っていますので、日本からしたら、十分巻き返せる余地がある」

モータージャーナリスト 清水和夫氏の提言:『ゼロ・クラッシュ』
清水氏
「世界中で100万人以上の方が1年間に交通事故で亡くなっていますから、自動車をやめてしまえばいいではないかという議論が起きますけれど、自動車に変わるものがないんです。個人の人が自由に好きな時に移動できる。こういうものを持続可能なものにしていくためには、とにかく1人でも事故を減らしていく。ここに向けた技術の可能性が出てきたので、これを否定する理由はどこにもないのではないかと思うんです」

中西孝樹 ナカニシ自動車産業リサーチ代表の提言:『消費者便益と国益』
中西氏
「消費者便益と国益、この2つの益についてどうバランスを取るかというところだと思います。入り口の議論というのは、基本的にはクルマを安全なものにしたい。清水さんがおっしゃられるように、交通事故の死亡をゼロにして安全を確保する。これは本当に規制の仕方、技術の情報改善の仕方が消費者の便益に直結している話ですね。これを守りつつ、日本というのはモノづくりをやめるわけにはいかない。そうすると、競争力で産業を獲得するための国益をどういうふうにバランスをとって戦略を定めていくか。ここが今回のTPPで突きつけられている重要な議論のポイントだと考えています」

井上隆一郎 東京都市大学都市生活学部教授の提言 :『オープンな基準』
井上教授
「安倍政権の成長戦略で、ディファクトスタンダードの獲得というのがあるんですけれど、ディファクトスタンダードというのは、獲得しようと思って獲得できるものではないんですね。仲間づくりと言うのですか、そういったものをしていく必要がある。先ほどから基準のイニシアチブをとるという議論があったんですけれど、イニシアチブをとる前提にはもちろん、国の中がまとまるのは当然なのですが、それと同時にオープンな基準づくり。たとえば、中国と韓国、欧州は基準づくりをかなり先行してきてやってきたということですが、欧州を仲間に引き込む。こういったことをやって初めてできると思うんです。なぜかと言いますと、これまで日本が基準づくりで成功した例は極めて少ないんです。たとえば、携帯電話のiモードは極めて優れたもので、経営戦略の教科書の中で例としてあがるようなものだったんです。にもかかわらず、時代の流れが変わったというだけではなくて、海外に展開しようと思ったら全くできなかった。つまり、良いものなら海外の基準に受け入れられるという単純な構造ではないということですよね。ですから、良いものをつくる。それから、国がまとまってつくる。これは当然なのですが、同時にそれを理解する仲間をつくる。つまり、オープンな基準づくり。つまり、良いものをつくれば、認められるはずだという理解をストップして、良いものはつくる。しかし、それを認める人もつくる。この両方を合わせてやっていくべきであると思います」