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2014年5月23日(金)
プーチン研究その実像 ウクライナ・中露接近

ゲスト

石郷岡建
ジャーナリスト
下斗米伸夫
法政大学法学部教授

プーチン研究 行動原理 中国接近の思惑とは
佐々木キャスター
「プーチン大統領は、中国と首脳会談を行い、共同声明を出しました。『他国への内政干渉と一方的な制裁に反対』と。なぜ中国に接近する思惑を見せたのですか?」
下斗米教授
「クリミア、ウクライナの問題で欧米諸国から制裁を受けた。これに対して、対抗手段に何があるかというのは、プーチン氏は大変な戦略を考えたと思います。これでうまく中国と話し、欧米のやり方に同調しないぞという社会的な仕組みを、世界は欧米だけではない、むしろBRICSをかけて、インド、中国、ブラジル、そういったことを含めて、中露が取り仕切るという、もう一方の旗を立てたんだろうと思うんですね」
反町キャスター
「ここで何か見せないと、国内的に手詰まりになるということですか?」
下斗米教授
「国内ではむしろそれほど反対というのはないと思います。経済は長期的に問題があると思いますが、現在すぐウクライナでどうこうなるということはない。しかし、国際政治でソチオリンピックを成功させたのに、欧米によって、同性愛問題など、一種の勝負をかけられたと。勝負には応じるよという、ジュウドイストの1つのやり方をもって、クリミアだけではなく、うっちゃりをかけたと言いますが、さらにもう一歩、これで中露同盟が、実際には同盟だと私は思いませんけれど、少なくともこういうバーチャルな対抗軸をつくって見せた。そういう意味で世界の政治のもう1つの柱をつくった、旗頭として自分が世界を動かすんだという。これはオバマさんが仕掛け人だったかわかりませんが、それに対して自分は応じるんだという姿勢を見せたと思いますね」
反町キャスター
「パワーゲームをやっているのですか?」
下斗米教授
「一種そうだと思います。冷戦が終わって、ロシアから見ればずっと追い込まれてきて、そういう立場になったロシアがようやく現在反撃というか、そういう意味でのある種のパワーゲーム、もちろん、戦争ではないわけですから、一種のゲームとしてはそういうものがあると思いますね」
石郷岡氏
「下斗米さんがおっしゃったように勝負をかけられたというのは、ロシア人は皆、今回は売られた喧嘩だから買わざるを得ないというのがすごく多いですね。そういうことで、欧米の制裁というのは、制裁を本格的にやったかというとかなり疑問なところがあるし、今回のこれも欧米に向けて何らかの意思表示をしたと思うけれども、欧米の制裁と似たようなところであって、しかし、彼の中には欧米の他に中国を含めたアジアをどうするかというのが1枚加わっていたのだと思いますね」

中露のパワーバランスは
佐々木キャスター
「推計ですが、ロシアのGDPは中国の5分の1になってしまっていると。プーチン大統領にとってロシアはそれほど強い国ではないという認識になっているのでしょうか?」
下斗米教授
「それはその通りだと思います。これは、特にプーチンさんが出てきた時に彼が最初に初めてインターネットを使って、自分が大統領に立候補する時のミレニアム論文を出して、実は我々は中国の5分の1だということを初めて認めるんですね。それまで中国と比べてロシアが遅れていると、特にエリツィン時代にロシアがずり落ちていくと。形だけ、政治面だけでG7に入ったけれども、それは全く形だけだと思っていたのを数字でプーチン氏は表したんですね。それでもって中国と比べて5分の1だというふうに世の中で比較される苦しみというのに、昔は自分が兄貴だと思っていたのに自分は今や5分の1の弟だという、これはプーチン氏のある種のロシア国民へのショック療法でもあったわけですね。だから、世界経済から見れば、ロシアはこの程度だという、それを明らかにしてロシアのエリート達が何かしないといけないというきっかけをつくったんだと思います」
反町キャスター
「自分達に足りないものを補うための接近か、反欧米の接近なのかは?」
下斗米教授
「そういうことよりも中国は中国で独自のそういう世界観を持っているわけですが、ロシアはロシアで1つは大陸の国だということですね。経済力は小さいにしても世界中17か国に国境線を接していて、何よりもユーラシアの一番大きな空間を占めていて、従って、いろいろな国とマルチにチャンネルがあると。イスラム社会とも話しあえるし、アメリカとも話しあえる2つのパートナーだし、ヨーロッパにもチャンネルがある。そう意味では、国際政治の秩序形成能力を自分達は持っているし、潜在力はあるし、そういう意味では、中国は経済力が高まっているけれど、中国はロシアから言わせると、必ずしも持っているとは言えない。そのへんはちょっと微妙だろうと思いますね」

中露の利益は一致
反町キャスター
「中露の思惑は?」
石郷岡氏
「中露の今回の話しあいを見ていると、明らかに中国の方が優位に立って交渉しているという感じを受けますよね。だから、今回のガスの値段についても相当叩かれたのではないかという気がしますね。にもかかわらず、プーチンはこの際、中国との関係が強いということを欧米に見せたかったと私は思いましたね」
反町キャスター
「『歴史の改ざんと戦後秩序の弱体化に対抗する』という声明が出ました。これは日本を意識している?」
石郷岡氏
「日本を牽制しているのではなくて、意識はしている。日本に対して敵対するということではなくて、同盟だとか、日本に敵対するものではないですよと」
反町キャスター
「まだ敵対でなくて、意識なのですか?」
石郷岡氏
「そうだと思いますね。中国についていくとどうなるかわからないという意識。日本よりも中国の方が彼らにとっては大きな問題だと思います」
佐々木キャスター
「中国がしたたかに押している?」
石郷岡氏
「中国はしたたかだと思います。歴史の改ざんということに関して言えば、第二次世界大戦戦勝国で、国連安保理の常任理事国として、これは外せないです。国連安保理事国が外れたらもうロシアは大国とも言えなくなってしまいますよね」
反町キャスター
「中国の思惑に引き込まれているというのはいかがですか?」
下斗米教授
「私は、それはプーチン氏の頭にきちんと入っていると思います。アジアと言った時に中国だけがカウンターパートではない。ベトナムあり、朝鮮半島あり、アジアの近代化なり、これには日本という強力なカウンターパートが、これから1つのカードとしてあり得ると。これを逆に意識し、今回中国に少し媚を売ったというか、そういうふうには見えると思いますね」

クリミア編入の狙いは
佐々木キャスター
「欧米の反対があるにもかかわらず、プーチン大統領はなぜクリミアを編入したのでしょうか?」
石郷岡氏
「プーチンさんはこのクリミアがちょっとおかしくなった時に記者会見で編入はしないという発言をしたんですね。その発言を受け、外相も、国連大使も、外務省関係者全員がしないと言って政界関係者も全員しないと言ったのですが、それから10日間の間に変わるんですけれど、その変わった理由の背景にはクリミアとロシアの国内でナショナリズムがすごい勢いで爆発していた。クリミアの人達がロシアに入りたいと言っていたなら、それは入れるべきだと言って、編入しないというのを撤回せざるを得なかったという。つまり、ナショナリズムを抑えられなかったというのが真実ではなかったのではないかと想像しています」
下斗米教授
「私はちょっと違いまして、当選する可能性の低いティモシェンコ氏という政治家は、ヤヌコビッチ体制の政治犯として捕まっていて、2月の時に出てきた。従って、同情を得て、大統領になる可能性があると同時に、プーチン氏がある意味交渉相手だったんですね。だから、プーチン氏は彼女にかなり期待していたんだと思うんです。彼女がBBCで何を言ったかというと、翌日の3月5日、彼女は2020年にはロシアのガスはいらないんだ。2番目に黒海艦隊というものを2042年までの延長を政権が決めていて、2010年にハリコフ合意と言いますか、これを決めたのですが、これをチャラにすると明確にしたんです。2月の政権交代クーデターは実はこれを潰すためのもの。そうすると、3年後にはクリミア半島がNATOの基地になると。モスクワの300マイル先にアメリカ軍がやってくるかもしれないという可能性を考えたのではないかと私は思います。そうすると、これはもう実力でやるしかないと、おそらく意見を急に変えたんだろうと思いますね」
反町キャスター
「西側の反発は想定内だったと?」
石郷岡氏
「想定内だったと思いますね。これくらいというのはちょっとわかりませんが、黒海艦隊が理由ではないと思います。プーチン氏は最近の記者会見の中で黒海艦隊のことは考えたということは言っているんですね。しかし、黒海艦隊の意味は18世紀、19世紀に比べるとほとんど価値がないということも言っているわけで、沿岸警備隊としても役割をはっきりしていないということも言っているわけですね。もう1つ言うと、言っていないのはナショナリズムの暴発と、下斗米さんのおっしゃった2月21日の三者合意を破って、下斗米さんは、プーチン氏は頭が切れたということはおっしゃいましたが、それが正しいのではないかと思いますね」
反町キャスター
「黒海艦隊に、軍事的な意味はないということですか?」
石郷岡氏
「プーチン氏はそう言っていますよね。私もそう思いますけどね。ボスポラス海峡が唯一の出口で、その唯一の出口はトルコ、つまり、NATO加盟国がいて完全に監視されているような状況にあって、大型船は通れない、空母も原子力空母も通れないというような基地はいわゆる世界的な戦略のうえでは意味がないと。現実にロシアの軍隊で一番大きな意味があると思っているのは、北のグルマンスにある北方艦隊と太平洋艦隊。両方とも主要な兵器は、艦隊がICBMミサイルをもった原潜であると。(黒海艦隊に)そういうものは一切持っていないと」
反町キャスター
「NATO軍の駐留するリスクを考えなかったのですか?」
石郷岡氏
「それはわかるんですけれども、NATO軍がセバストーポリ、黒海艦隊基地を通ってウクライナの西側にNATOが来ることが、かなり可能性が高くなったわけではないですか。あれを編入というものをせずに、材料として黒海艦隊の基地だとかというものをやっていけば、別に来なかったかもしれないのに、くる可能性を強めたと。私がロシアの友人に言ったのは『あなた達はクリミアを取ったかもしれないけどウクライナを失ったよ』と。逆に言うと、失ってみると黒海基地は、来るNATO勢力を監視するためには良い場所になるということはあるかもしれませんね」
反町キャスター
「ダメージコントロールで、100負けるのか、80負けるのかの中で、80をとったのがプーチン氏の判断では?」
石郷岡氏
「もしそうならば、プーチン氏はウクライナ東部と南部を全部とるべきですよ、今の論理なら」
反町キャスター
「それはできないでしょう」
石郷岡氏
「できないというのは、ウクライナというのは、東部も含めてこれまで非常に中立地帯でロシアにとっては非常に安全だったのに、安全ではなくなったということですから、クリミアをとって喜んでいる場合ではないのではないかとロシアの人に対して言いたいですよね」

ウクライナ大統領選での狙い
佐々木キャスター
「ウクライナ大統領選の候補者のポロシェンコ氏、ティモシェンコ氏の大きな違いはどこになるのですか?」
下斗米教授
「2人ともお金持ちである。ウクライナの不幸は経済的にソ連崩壊後急にお金持ちになった人達が政治も執らないといけない、逆に政治も執らないと自分の財産が資産と判定できないと。ここがおそらく一番の不幸だと思うのですが、それを前提で言えば、ポロシェンコ氏は東側との関係も悪くないし、チョコレート王と言われていてウクライナの中でおそらく10番以内のお金持ちですが、同時に、外務大臣もやり、経済大臣もやっていますので、非常にバランスのとれた人ですね。従って、敵が少ない。現在のウクライナにとってリーダーに一番求められる資質は敵がないことです、つまり、西側にも、ロシアにも、国内の2つのグループにもあまり嫌われていない。そういう意味ではポロシェンコ氏は非常に強みです。1つは、プルシェンコ氏はクリチコ、ドイツに非常に近いグループの元ボクサーをやっていた人ですが、この人と組んでいるんですね。従って、ドイツも特に紛争を収めようという動きをやっていまして、その意味ではポロシェンコ氏は非常に強い立場になってきた。世論調査で30%、50%近い。これに対してティモシェンコ氏は、私はいろんな意味で間違えてしまったんだろうと思います。ヤノコビッチ体制の政治犯だったわけですから、本来だったら、彼女のグループが大統領代行もそうですし、お仲間なわけですから、当然出てきてもいいにもかかわらず、先ほどの発言でクリミアをとられたと、ウクライナから見ればそういうことになりましたから、そういうこともあって、おそらくアメリカに入国を求めて、アメリカ政府も会見を断ったと。そういったことで今回ずっと人気が下がり始めて現在実質3番目だと。そういう意味では、だいたいポロシェンコ氏で決まりなのかなと」
石郷岡氏
「今度の大統領選挙はクリミアが投票しない。それから、ルガンスクが投票しないということは、西ウクライナの候補者が勝つと。そうすると、この2人しかないということになるわけですよね。もし何かそうでないというものが出ると、僕は非常におもしろいなと思っているのですが、そういう結果にはならないのではないかと。ポロシェンコ氏もティモシェンコ氏もどこかで見た人だということで、実際はウクライナの国民からそんなに支持はない」
反町キャスター
「チョコレート王が大統領になったとします。その人とプーチン大統領の関係はどうなのですか?」
石郷岡氏
「現在の政権より断然いいです。なぜかと言うとこの人は唯一東西ウクライナの統合について語っている人で、それが昔いた金持ちのしょうがない人だなと思いつつも登場する第一の理由は、東側に向かって声をかけている人だからですよ。ティモシェンコ氏は、ロシアの核兵器を使って打ち出すということを言ったりするエキセントリックな人だから、現代のウクライナの中ではいい加減にしてくれと言うのが普通の人の感情だと思いますよ」

KGB出身という経歴
佐々木キャスター
「プーチン大統領の人物像に迫っていきたいと思うのですが、1952年にレニングラード、現在のサンクトぺテルブルク市で生まれます。法学部に行って、有名なキャリアとしては、KGBに入局している。そのあとは、大統領府の副長官を務め、KGBの後身のFSB長官を務めて、ここからとんとん拍子に46歳で首相に就任。47歳、翌年は大統領選で当選、いったん首相になるも、また、大統領に復帰するなど、40代から駆け上がっていくようなキャリアですが」
反町キャスター
「情報機関出身であるということが彼の出世にプラスになりましたか?」
石郷岡氏
「明らかに主流を歩いているわけではなく、だから、当時の、KGB議長の発言では、プーチンが何か仕事をしたかどうか覚えていないみたいなことを言ったりするわけですね。それはモスクワの主流派側からすると、サンクトから来た田舎者が何をするかという雰囲気は随分あったようですし、それから、KGBの人に聞くと反感があった、最初は。と言うことで、彼がKGBということについて、KGBの組織の上にずっと乗っていったという感じではないですね」
佐々木キャスター
「KGBでそれほど芽が出なかったといいますか、プーチンさんのどういう資質、考え方、主義、主張があって大統領として見込まれて現在に至るのですか?」
石郷岡氏
「プーチンさんは、一言で言うと、国家主義者。国のことを考えることが一番大切で、人権、民主主義、自由。それは二の次だという考え方で、国というものが壊れた場合には、ロシアはなくなると思っている人ですよね。お父さんがそういう感じで、対独抵抗運動で諜報活動をした人で、その影響が非常にあったと思います。現在でも自由民主主義よりもとにかく国をまとめることが大切だと。それは彼のウクライナに対する国家観にも表れていて、彼が言うのには、ウクライナは国の体をなしていないと」

現実主義のルーツとは
反町キャスター
「たとえば、プーチン大統領を描写する言葉として現実主義という言葉がありますよね、ロシア主義とか言われ、反欧米と言う人もいるんだけれども、現実主義という、ロシアが大切、国家主義者であると言いながらも、現実的な対応をするんだと。この部分はどう見たらいいですか?」
下斗米教授
「外をよく見る人だと思うんですね。だから、彼は、東ドイツで、ベルリンではなく、ドレスデンで勤務するんですよ。どちらかというと地方都市で、しかも、西側を見ていた。これが1つですね。もう1つは、彼の経歴の大統領府副長官の時に、ロシアの地方を担当したんですね。地方の政治をじっと見ていて、地方で誰が権力を持っていて、どうして法令が、税制が機能しないか。国家はどうして機能しないかというのをじっと見ていたんですね。だから、そういう意味で、リアリストということを語る場合、ロシアの国家の中軸がどうして機能するか、しないかというのを彼は見ていて、それでFSBになり、首相になり、大統領。おそらく、プーチン氏がやったことで一番大きいことは政治と経済を分けた。政治のキングメーカーを辞めさせたと。そのために、ホドルコフスキー氏という極めて優良な石油会社のオーナーを10年間政治犯にして、代わりに政治と経済は分離した」

高支持率は維持できるのか
佐々木キャスター
「プーチン氏の支持率は、クリミア編入後の4月下旬に実施した世論調査では82%と非常に高い支持率を得ているんですよね。一貫して、首相時代も、大統領時代も高いといえば高いのですが、特にクリミア編入後、高くなっている。ロシア国民は、かなり熱狂して受け入れていると考えてよろしいのですか?」
石郷岡氏
「ナショナリズムの爆発だと思います。これはプーチン氏がナショナリズムをコントロールして、支持率を上げたととる人が多いのですが、私は82%の上はないだろうから下がっていく。これから下がっていくばかりで、このナショナリズムをちょっと利用したようなクリミア編入というのは今後響いてくると。逆に言うと、今後ナショナリズムがあった時にコントロールができるかということになると、難しいのではないか。ピークに来たことによって、プーチン氏はこれからが大変だと思います」
反町キャスター
「それは、あと落ちるだけという意味ですか?」
石郷岡氏
「そうですね」
下斗米教授
「リーダーの発する秩序のイメージと、実感として、特に、石油価格、ガス価格が上がってきたのもあるのですが、それがマッチするものですから、従ってプーチン氏は安定したリーダーだというのがロシアの現在。ところが、あくまでもブレジネフ時代と同じで、改革をそれほどやらずに石油価格の1バレル、百数ドルとか、そういった石油バブル。エネルギーバブルの所産でしかなく、だから、それを本格的に変えなければいけないというのは皆わかっているんだけれども、それをなかなかやるインセンティブがない。そこのところで、プーチン氏がこれからどうするのか。1つは、少なくともエネルギーとか、何か政策を変えなければいけない。LNGとか、そちらの方にシフトしなければいけない。しかし、ウクライナ問題もあって、ヨーロッパではほとんど売れないから、西に8割、9割ぐらいまでのエネルギーを売ってきた戦略がとれない。今回の中国に見られるように、東に売らざるを得ない。あるいはインドとか、インドネシアとか、韓国とか、何よりも日本。こういったところにどれだけロシアはシフトできるか。プーチン氏のこれからの戦略は、そういう意味では、東にシフトする。それがプーチン氏がやらなければいけないことです」

ロシアの国家戦略とは
反町キャスター
「貧富の差、社会苦の構造改革とか、莫大な石油やガスの売上げというものは国民にきちんと再分配されているのかどうかということに関しては極めて疑問だという人が多いと思うんですけれども、財閥の問題だとか、富の公平な分配だとか、そのへんの格差の問題というのは」
下斗米教授
「たぶん2000年代の初めまではモスクワだけが独り勝ちという状況だったんです。ところが、プーチン時代の一連の地方政策を見てみると、プーチン氏が地方を重視した理由は、地方の拠点都市みたいなのを、イルクツークだとか、ノボシビルスクだとか、あるいはウラルとか、こういったところをかなり重視していてエカチェリンブルグで何かをやるとか、オリンピヤードをタタルスタンの首都でやるとか、何よりもサンクトペテルブルグで経済フォーラムをやるとか、そういう形で拠点都市をつくってやってきた。あるいはインフラ整備をそれにあわせてやろうとしている。道路をつくる、鉄道をつくると。それでもって現在のところ、流れているわけですね。問題はさらにその先にあって、これから経済の現代化をやるとしたら、ITとか、学術への投資だとか、もっと構造的なロシアの飛躍が求められている。ここにどれだけシフトできるか。この2つがおそらくプーチン氏にとっての現在の最大の悩みの種だと思います」
石郷岡氏
「2003年から8年頃、要するに、経済危機がくるまでは石油の価格がどんどん上がっていって、石油の価格で儲けたけれど、おこぼれで下の方にも随分いったわけで、その間に中産階級が明らかにできあがっていったわけで、それをやったプーチン氏というのは、石油の価格はプーチン氏と関係ないかもしれないけれど、そういうシステムにしたというプーチン氏の功績は大きいと。しかし、2008年、2009年に経済危機でちょっと油価が上がらなくなったから下の方への流れがなくなって、中産階級が崩れ始めて、デモが起きていると。その一方で、プーチン氏は世界経済危機がきた時に、政府資金を出して、貧困層とか、政府資金に頼っている教師だとか、そういう官庁とか、そういう人達に莫大な金をばらまいたわけですよ。だから、まだ強いんですよ」
佐々木キャスター
「エネルギーを武器に外交をしているという話がありました。経済的にエネルギーに依存した形ではない国家戦略をプーチン大統領は考えているのですか?」
石郷岡氏
「なっていると思いますけれど、上から棚ぼたのようにいっぱい石油が落ちてくるのに他のことを考える気にはならないと思います」
佐々木キャスター
「結局、そこが足枷になるということですか?」
石郷岡氏
「石油価格が上がって、石油代金がいっぱい外からくるうちはろくなことが起きない。しかし、石油がなくなって、困ってくると皆考え始めると。改革を始めるとか。だから、ソ連の崩壊、ゴルバチョフの改革というのも、そういう時期ですね。石油の呪いを払拭するためには、石油がないことを苦しんだ方がいいと思います」

反欧米とロシア経済
反町キャスター
「フル生産にできないでいる中東の国々がありますね。政情不安の関係で。彼らが戻ってきた時、ロシアはどうなるのですか?戻ってきてシェールがもっと増産される時に、ロシアの選択肢というのはぐっと狭まってくるのですか?」
石郷岡氏
「狭まってくるでしょうね。だけど、昨年のアメリカのエネルギー局が調べたところでは、石油の埋蔵量はロシアが第1位ですよね」
反町キャスター
「でも、採掘するのにアメリカの資本とか、技術が必要になりませんか?」
石郷岡氏
「もちろん、そういうこともあります」
反町キャスター
「たとえば、現在の中露の姿勢で、それはできませんよね。それはまた別でやる。できるのがプーチン大統領?」
石郷岡氏
「いや、要するに、ロシアがそれを開発すればいいわけだから。そういうことをするかどうかの話だけれど、その話をエネルギー専門家に聞くと、そんなことをしなくても石油はいっぱいある。石油がどこにあるか知っているかと。パイプラインの中にあると。それはどういう意味かというと、パイプラインで運び出す中でどんどん漏れていると。そういうものを改善した方がはやいと」
反町キャスター
「小売りよりもメンテナンスですね」
石郷岡氏
「メンテナンス。もう膨大な無駄をしている、ソ連時代から。資源がいっぱいあるのに、それを放ったらかしてシェール石油を掘っても意味がないと」

北方領土問題をどう見ている
佐々木キャスター
「プーチン大統領は北方領土問題をどう考えていると思いますか?」
下斗米教授
「ある種の妥協だったら解決するという枠組みだと思います。北方領土問題について、大変面白い最近の展開は、ロシアのもう1つの国家戦略ですが、北極海を開発するという。北極海を使ってエネルギーを採り、LNG化し、あるいは輸送のトランジットの、日本と、アジア、ヨーロッパへの3分の2ぐらいで。時期によりますけれども。そういう道をつくる可能性が出てきている。こういう現在の地球の温暖化の展望の中で、北方領土を含む、千島列島というのはベーリング海に行く一番の入口になるんです。逆に言うと、北極海から、たとえば、ノルウェーのような国が現在、ロシアと中国と日本、韓国、シンガポールも国際的なプロジェクトで、北極海の開発とエネルギーの開発および極東の開発のプロジェクトというのがあるのですが、そういう角度から見ると、アジアに持ってくる一番の近道というのは、オホーツク海を通って、宗谷海峡に抜けるところです。そうすると、ロシアとすればああいうところを国際プロジェクトとして開発するには、国境線を決めなければいけない。いよいよ避けられなくなるという。もう1つは、中国問題とも絡むのだろうと思いますが、いろんな意味で、中国が領土問題について、これはやや歴史が絡むのですが、地図に北方領土は日本領と書いてあるんですね。1964年に中国が核開発を成功させ、同時に国境線確定の行使を始めた時、これは2004年に終わるのですが、その時、おそらくダミーだったと思うのですが、中国のソ連に対する不満を示すため、毛沢東が北方領土は日本領だと。毛沢東は日本のマスコミと社会党のリーダーに言うんですね。それ以来、現在でもこれはそのままになっているんです。ところが、昨今どうやら聞いたところによると、第二次世界大戦とも絡むのですが、中国側はこれをロシア領に戻してもいいと。その代わりに、尖閣列島についての、我が国の核心的利益をということを非公式に言っている人がいる。そういう意味で、ロシアからすれば、この問題を放置しておくと、あるいは中国とのパートナーシップがそういう形で進むと、実は外交の自主権がロシアはなくなってしまう。アジアへのテコがなくなるという。それはおそらくプーチン氏が最も考えたくないことだろうと思うんです。プーチン氏が日露関係を解決することについては、そういう公式文書で言っているわけで、それを進めたい。対中関係からしても、あるいは対中バランスを政治、経済、エネルギー、あるいは極東開発。もちろん、中国と協力することはやぶさかでないが。にもかかわらず、日本との関係はバイでやりますという」
反町キャスター
「ナショナリズムにつき上げられている部分もある大統領が多少の妥協といえども、2島先行ないしは、残りの2島は、帰属権はどうするかの話になると、少なくとも、自分が現在、事実上実効支配している土地のいくつかを日本に渡すことになりますよね。それは可能なのですか?」
下斗米教授
「日本外交がこれから全力を挙げてやらなければいけないポイントだと思いますが、1つは82%という高い支持率ですよね。これだけ高い支持率である意味、ロシアにとっては自分達の因縁の土地を、ある意味で取り戻したと彼らは考えている。そうすると、これが国際的な国境、あるいは国連常任理事国であるロシアがそういうことをやったということについての国際的なブーイングがあるわけで、そういう意味では、そのあと、プーチン氏はどう考えているのか。それはこのあとの国際状況全般、あるいは日露関係の進展の度合いによりますけれど、ここで国際的に紛争を解決すると彼らが動くということはあり得ると思いますし、私も聞いている何人かの有力な研究者達は、その方向の議論をしています」

北方領土問題の進展は
石郷岡氏
「日本で領土問題をやる時は何島返すかという問題があるのですが、プーチン氏が考えているのはロシアの戦略と、日本の戦略が一致して、ある種のパートナー、もしくは連携関係ができるならば、その枠内でお互いの妥協点を探せると思います。2つあるのですが、1つ目は、領土問題というのは北方領土問題になっているんですけれども、尖閣の話をすると、あるいは日清戦争のところから始まったと中国側は言っていますよね。ところが、その前に、1860年に北京条約と言うのが結ばれていて、わずか30年の差ですが、その時にハバロフスク州と沿海州がロシアによって強奪されているわけですね。明らかに不平等なわけです。ところが、中国はそのことについては自国の領土だと言わないわけでありまして…」
反町キャスター
「そこに火をつけるべきだという意味ですか?」
石郷岡氏
「いや、そうではなくて、そのことについて中露の間にはお互いのわだかまりがあって、簡単にはいかない状況があるわけで、もし尖閣を言うならば、ハバロフスクや、それから、沿海州を言うのかと。そうなると、ハバロフスク州、沿海州の昔は、サハリン、もしくは樺太も中国領になっていく。千島も中国領という話になりかねない話でしてね。そんなに簡単な話ではないわけです。1つは、そのことを土台において言うのはプーチン氏が最近考えているのは、現代は多極化世界になっている。プーチン氏が大統領府に入った時にはアメリカの一極世界になるということで、2003年ですか、2001年のアメリカの爆弾テロ事件がありましたね、同時多発テロ。あの時にプーチン氏は、我々はあなた方と共にあるということを言って、明らかに一極世界のアメリカに従うという表現をしたわけですよ。2003年なると、イラク戦争で、これはついていけないということになって、そこから、アメリカはこの世をコントロールしていないという多極に変わって、2007年のミュンヘン演説の時に、彼が言ったのは、来ると思った一極世界は来なかったと。それで、2012年の大統領教書で彼が言ったのは、これまで秩序を保っていた極、アメリカの方ですね。極は、もはや世界をコントロールできないと。しかし、これからなると思われる極はその用意がない、中国ですね。つまり、そういう極が混乱している時代において、我々は生き残れる術を考えなくてはいけないと。我々は大きな極にはなれないけれども、この2つの極が、混乱させるような時には、自分は守らなくてはいけないと。それで、東北アジアにおいて一番の問題は、この大きくなる極である中国であって、このバランスが変わっていく中で、ロシアはどうしようかと思っている時に、1人ではどうしようもないと。誰かパートナーがほしいと。インド、ベトナム、韓国。でも、日本でしょうということを彼は思っていて、そのことを中心に、北方領土問題を、その駒に使いたいと思っていると思います」

ジャーナリスト 石郷岡建氏の提言:『領土問題より対中戦略』
石郷岡氏
「領土問題を解決するためにはロシアとの提携、もしくはパートナー関係を結ばなければならない。その際に最も利害が共通するのは対中戦略である。中国をこれからどうするのかという問題で、ロシアとの妥協点を見つけ出して、その立場から交渉をする」

下斗米伸夫 法政大学法学部教授の提言:『ロシアの脱欧入亜を生かす』
下斗米教授
「ロシアの脱欧入亜を生かすということです。先ほど申し上げたように現在のウクライナ問題、ロシアから見れば兄弟国家だと思ってきたんですね。ところが、特に西ウクライナの人達が自分達はヨーロッパ人だと。結果紛争が起きてしまった。ロシアはアジアにシフトせざるを得なくなった、エネルギーの輸出1つとってもですね。そうすると、アジアでパートナーを見つけるとすれば、もちろん、科学技術とか、IT、あるいは、インフラだとか、スマートシティーだとか、こういったような、エネルギー以外のところで日本の持っているメリット。中国がまだあまり持っていないもの。これを提供できるのが日本ですね。そういう意味で、日本とロシアが協力をする可能性は広がっている。極東に経済の軸足を動かして、第2の都をつくろうとしているようなプーチン政権ですから、このチャンスを活かさないことには、日本は日露関係、特に、領土問題を含めて、そこに、おそらく1つの鍵があるのではないかと」