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2014年4月15日(火)
あるか第二の冷戦 緊迫クリミア米露対立

ゲスト

袴田茂樹
新潟県立大学教授
宮家邦彦
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
中山俊宏
慶應義塾大学教授

緊迫するウクライナ情勢 露・クリミア編入決定のワケ
島田キャスター
「ウクライナを巡る世界の動きですが、2月23日、ヤヌコビッチ政権が崩壊しました。2月27日、トゥルチノフ暫定政権が発足しました。それを機に、クリミア自治共和国が独立を宣言し、3月18日にはロシアのプーチン大統領がクリミアをロシアに編入する条約に批准しました。これを受けて、欧米各国はロシアに対する経済制裁を発表。3月24日のG7の緊急首脳会議ではロシアの行動を強く非難しました。また、4月15日にはトゥルチノフ大統領代行がウクライナ東部で強制排除を始めたと表明しています」
宮家氏
「新しい時代が始まったという感じですね。これまでロシアがソ連だった。それが潰れました。ヨーロッパ諸国は何とか、いろんな合意をつくって、ロシアをある意味、封じ込めようとした。ロシアを民主主義にしていろいろな条約、宣言をして、何とか、20年間ポスト冷戦時代に、新しいロシアとの関係。逆に言うと、ロシアの本性を封じ込めることができると思ったんだと思うんですね。ところが、この20年やってきて、ロシアは牙を剝いた。また噛みついてきた。クリミアもとってきた。これはおそらく新しい時代が始まった。逆に言うと、少なくともポスト冷戦の時代は終わった。おそらくロシア革命の前みたいな、その前段階の弱肉強食の醜い、ヨーロッパのナショナリズムが冷戦時代に封印されていたものが、皆ブァーッと出てきた。その新しい時代が実は始まったのではないかなと。これは単にヨーロッパだけの問題ではなく、世界各地の旧帝国的なナショナリズムで、旧帝国的なものがあるわけです。たとえば、ロシアがそうですよね。言っては悪いのですが、たとえば、イランもそうだし、トルコもそうだし、もちろん、中国もそうですよ。そういったところに波及しないか。つまり、昔からの伝統的な大ロシア主義、もしくは大トルコ主義、大中国主義、こういうようなものに飛び火することを、私は気にしています」
反町キャスター
「飛び火する可能性はどうですか?」
袴田教授
「現在の国際情勢は20世紀前半の状況に酷似しているという、非常に似ているという感じは持っていたんですよ」
反町キャスター
「まさに第一次大戦前夜みたいなイメージなのですか?」
袴田教授
「そのあとに続く、20世紀前半の雰囲気を1つ大きくひっくるめて言っているのですが、どういうことかと言いますと、冷戦時代がある意味で例外であった。2つの陣営に分かれて対峙していたので、本来歴史的にもう長い何百年、あるいは何千年という歴史の中では、民族とか、宗教とか。近代は今度、国民、国家とか、そういったものがメインのプレイヤーとして、いろいろうごめくのは当たり前という、それが歴史であり、国際関係であったわけですが、それが2つの陣営の中で、国家とか、民族とか、宗教とか、そういう要素まで封印されていたんです、両方とも。あたかもそういったものを人類は乗り越えたかのごとく、ある種の錯覚が生まれていた」
反町キャスター
「錯覚と言い切る段階ですか?」
袴田教授
「もう、そう(です)」
反町キャスター
「蓋を開けて皆飛び出だしてきているという意味ですか?」
袴田教授
「ええ、だから、これは、ポストモダニズムという考え方は、割と冷戦を乗り越えた発想というふうに、通常冷戦思考を乗り越えた、新しいグローバル化の時代の発想と見られているのですが、ポストモダニズム、つまり、国家とか、領土とか、国境とか、そういうものはグローバル化の時代には過去ものになるんだという発想なのですが、実は、これは冷戦時代生まれた、冷戦時代の刻印を非常に強く押されている発想です。どういうことかというと、国家とか、民族とか、宗教とか、そういった要素が主要なファクターではないというのは、冷戦時代にまさに、しかし、それが歴史的に見て、むしろ特殊な状況であって、冷戦構造が壊れたあとだから欧州共同体のような新しい夢のような人類の共同体ができたのでもなく、フランシスフクヤマさんが言った対立と抗争の歴史は終わったのではなくて、逆に歴史の基準の部分、冷戦時代に封印されていたものがワァッと出てきた」
宮家氏
「人間の本質とあまり変わらないのではないですか?」
袴田教授
「そういうことですよ」
反町キャスター
「第一次大戦、第二次大戦で学んだわけではないのですか?」
袴田教授
「人間の本質は、現在孫子の兵法を読んでも古さを感じさせませんよ」

プーチン大統領とアメリカ
島田キャスター
「オバマ大統領は、親ロシア派武装勢力に対するロシアの支援に『強い懸念』を表明したところ、プーチン大統領はロシアによるウクライナ東部への介入の懸念は誤った情報に基づく臆測だとも反論したわけですけれど、こうした状態で議論は物別れに終わったのですが、プーチン大統領は、オバマ大統領をどう見ていると思いますか?」
袴田教授
「昨年シリア問題で、実はオバマ大統領が化学兵器と大量破壊兵器が使われているのがわかったら、武力介入する。これがデッドラインであると世界に公表をしたわけですよ。実際に、化学兵器、サリンの使用がわかった。では、世界に公約したことを実行するのかと思ったら、議会に責任をふって、それでうろたえている時に、今度はプーチン氏が化学兵器の国際管理という助け舟を出して、オバマ大統領はそれにすがる形でメンツを救ってもらった。プーチン氏は完全に自分の方がオバマ大統領より上であると。オバマ大統領は全く無力であると。その雰囲気はロシアの国内全般に広がっていまして、オバマは全くダメなやつという雰囲気がロシア全般に広まっています」
反町キャスター
「たとえば、国力、軍事力というのは全く考えずに、パーソナリティとして、オバマ氏、プーチン氏を比較して、うちのボスの方がかっこいいとはっきり言える。コントロール、グリップがちゃんとできているという比較です。実際、たとえば、かつてみたいに実は戦ったらどうこうとか。現在GDPで比較をしたって、こんなに違うわけではないですか。そういう比較の話ではなくて、うちの親分は立派だよというレベルの満足感ですか?」
袴田教授
「いや、そうではない。シリア事件でフォーブスという雑誌の世界で一番有力な政治家として、オバマ氏ではなくて、プーチン大統領が表紙を飾りました。昨年のことですよね。しかし、プーチン大統領自身はもともとそういうリアリストで力の政治というのを信じている1人ですが、オバマ大統領は最初からあらゆる国際問題は話し合いで解決すべきであるし、できるというような信念をかなり強く持っていた。それに対してロシアはリアリストが多いですから、全く頭からそれをバカにしていると。そういうわけないよという今に見ておれと。それを現在見せたような感じになってしまったと」
島田キャスター
「この関係性というのをどのように見ていますか?」
中山教授
「プーチン大統領は、オバマ氏のことを恐れていないと思うんですよね。現在、袴田先生からも話がありましたけれども、オバマ大統領はポストモダンの世界の住人で、こうやって、剥き出しの、いわば国と国がぶつかり合うような局面でうまく対応できないだろうということは、プーチン大統領は読みこみ済みで、こういう行動をとったと。ですから、オバマ氏がこの状況を引き起こしたということでは一切ないですけれども、ある種、こういうことを引き起こすような環境をつくり出したということは言えると思いますね。ただ、他方で、本当に現在の国際政治が剥き出しの力と力のぶつかり合いだけかというと、おそらくそれは違って、モダン的なるものとポストモダン的なのが複合的に混ざり合っている。だから、オバマ的な価値観でないと解決できない問題みたいなものも依然たくさんある。他方で、力で対処しなければいけない局面もある。両方を併せ持っている指導者というのはなかなかいないと思うんですよね。ですから、こうやって非常に混沌とした状況になっているというのが、現在の状況なのではないかなという感じがしますね」

アメリカの対応
島田キャスター
「オバマ的なものというのがどこにあるかというのはわからないのですか?たとえば、2月28日には、ウクライナへのいかなる軍事介入に対しても、アメリカは国際社会と協力して代償を払わせるんだと言って、次の月はロシアが態度をあらためなければ、同国の孤立は一層深まり、より厳しい制裁装置が発動されるんだと強い調子で言っているのですが、それがあまり効き目がないというか、オバマ大統領は結局どういうふうに立ち向かおうとしているのだろうと思いますか?」
中山教授
「議会からの批判、オバマ政権に対する批判の中でルーズベルト大統領を引き合いに出して、ルーズベルトの、穏やかに話さなければいけないけれども、太い棍棒を持っていなければいけないというのですが、オバマ政権は非常に勇猛果敢に話すけれども、枝ぐらいしか持っていないと言うんですね。だから、大統領は力を行使できないだろうと国際社会から見られていると。それには根拠にあるのが、そもそもオバマ政権が誕生した時に、9.11によってアメリカのとった行動、過剰反応を引き戻す、軌道修正するという。それは具体的に言うとイラクからの引き揚げ、アフガニスタンからの引き揚げということだったんです。ですから、力の行使ということに関する明確なビジョンがないまま政権についてしまった大統領ということなのだろうと思うんです、オバマ大統領は」
島田キャスター
「どっちつかずみたいな感じがするんです。とことん話し合おうぜでもないし、何かちょっとこういうことも言ってみるみたいな感じの印象があります」
中山教授
「そうですね。そういう側面があるかもしれませんね」
袴田教授
「かつてアメリカは、国民も、指導者も、アメリカが世界の安定と秩序のための国際公共財を提供する国だということに非常に強い誇りを持っていた。しかし、現在のアメリカの国民は、ちょっと言葉の矛盾ですが、マイノリティが多数派になりつつある、あるいはマイノリティのグループが、つまり、第三世界からいろいろ移民してきた人達、かつて欧米帝国主義の支配を受けた地域の人達とか、そういう地域から移民としてやってきた人達が現在多数派になりつつある。そういう人達はアメリカがそういう強大な国家として、世界の秩序と安定のための、国際公共財を提供するという、そういうことに誇りを持つ前に、自分達の親なり、自分なり、あるいはそのうえの世代なりが欧米にいろいろと苦しめられた。そういう世代だと思うんです。そうすると、現在アメリカの国民の雰囲気が変わってきているし、また、オバマ大統領、その周辺の人達もマイノリティの人が多いわけですから、私は以前のアメリカとか、アメリカ人が持っていたメンタリティそのものが基本的に変わってきているので、我々もアメリカ感を根本的に変えなきゃダメな時期がきているんだと思っているのですが、どうでしょう?」
中山教授
「確かに、このアメリカの人種構成が、アメリカがそのことに向き合う姿勢を変えるということは十分にあり得ると思うのですが、それが直接あらわれている感じは、私はちょっとしないですね。むしろ2000年代に行った戦争に対する疲れということがあると思います。よく言われるのはイラクで学校建設し、アフガニスタンで学校を建設したりするのもいいけれど、アメリカでそれをやろうよという。ですから、外に対して関与したアメリカはまさに公共財を提供していくことに対する明らかな疲れみたいなものがあって、これまで共和党の方がどちらかというと対外関与に積極的な政治家が多かったのですが、この番組でもティーパーティーの話もしたことありますが、共和党の中でも内に向かおうとする衝動が非常に強くなっているというのが現在のアメリカの新しい点かなという感じがしますね」
宮家氏
「クリミアの問題が表面化してきて大きくなっていったのが、2月の下旬ですよね。私は3月の第1週にワシントンにいたんです。微妙な、しかし、大きな変化を感じまして、まずロシアを見る目が全く変わってしまった。しかも、確かに袴田先生がおっしゃられたように、マイノリティの(ことは)大事なんですよ、だけれど、私はアメリカの外交政策に関心があって、そこで発言をしている政治エリートというのはいるわけで、彼らの中では現在のようなままではまずいということは、つまり、オバマさんではしょうがないと。中山先生がおっしゃる通り。彼の歴史的な役割があるわけで、彼はそれから変えられないわけですよ。彼らはイラクの戦争とアフガニスタンの戦争をやめる大統領だから。やめるといった大統領がシリア、エジプトで戦争をやるわけにいかないわけです。そこはしょうがない。だけれど、オバマの次はロシアの問題が大きな要素になっていくと思うし、そこではこれまでのやり方とは違うバネがまた働く。ある意味では、2001年にテロとの戦いにワーッとのめり込んで、今度はやり過ぎたものだからヒヤーッと何もしなくなった。その中間に、おそらくアメリカの社会ですから、どこかに戻っていって、その時にはおそらくロシアに対しては新しい考え方を持った昔のロシアの専門家、東欧の専門家がまた帰ってくるような気がしてならないですね」
反町キャスター
「でも、ロシアだけではなくて、おそらくアジアにおける中国、要するに、まだオバマさんの任期が2年残っています。2年間の間に、中国、ロシア、旧帝国を持っていた他の国々も含めて、あちこちに根や葉をどんどん出すというそういうような状況になりますよね」
宮家氏
「そこが問題ですよ。私が3月のアメリカで聞き、感じたことは、アジアのことに関心がなくなっちゃったんじゃないけれども、皆考えなくなって、つまり、ヨーロッパのことしか考えなくなったわけです。これがまた戻ってきたと思って、これまでせっかく、アジア重視だと言ってくれたのですが、そもそもの論理的な前提というのは、ヨーロッパは平和ですね、中東では戦争が終わりますね、だから、アジア重視ですね。このロジックがもう変わっているんですよね。だって、ヨーロッパは緊張だらけではないですか。へたしたら、これが中東に飛び火するかもしれないではないですか。そんな時アジアをやっていていいのですかというムードになっちゃったら、日本にとっては大変ですから、そこはちゃんとアメリカの関係者に対して、ヨーロッパもいいけれど、それは単にヨーロッパの問題ではなく、中東、アジアに波及するんですよということを言い続けなければいけないと思っている」

東アジア 日本への影響
反町キャスター
「オバマ大統領が外に行かない、内向き政策を続けている限りにおいて、中国はアジアにおいて次の一手はどういう手で出てくるのですか?」
宮家氏
「中国の次の一手と言うよりも…」
反町キャスター
「と言うよりも、中国はオバマ氏をどのように見ているかというところかもしれません」
宮家氏
「手ごわいと思っていると思いますよ。オバマ氏になって、うまくやれるのかと思ったけれども、むしろ最近の数か月の動きを見ていると、ヘーゲル氏が中国に行った時にも、それから、今度のオバマさんが来る時も何を言うかはわかりませんが、かなり中国に対して厳しくなっているんですよ、この数か月間では。ですから、その意味では、中国は引き続き日本を何とかアメリカから離反させたい。アメリカと日本を引っ剥がしたいと。日本と韓国を引っ剥がしたい。日米韓この3つを引っ剥がしたい。それによって自分達の政治的なスペースを広げたい。アメリカ側は日米韓でアメリカを中心とするポリティカルなスペースを広げたい。このせめぎ合いが引き続き、東アジアでは続くと思います」
島田キャスター
「中国はここまで行って、誰も何も言ってこなかったら、もう少し先に行くという、それを繰り返すというではないですか。アメリカがちょっとよそ見している隙にちょっかいを出してくるというような危険性はないのですか?」
宮家氏
「それは確かにその通りなんですね。つまり、クリミアをもし本当にアメリカが黙認しちゃうようだったら、ごちそうさんでしたという。では、こちらもいただきますということになるでしょうから、中国はプーチン氏みたいに大胆にではなくて、もっと慎重だと思うんです。要するに、相手が絶対にギブアップしても絶対にこないという時だったらいただきますが、よく見たうえで戦わずして勝つ方法を常に考えていると思うんですよ。今回のロシアの動きは彼らにとって、1つの大きな教訓になると思うんです。それはあまり勝手なことをやると経済制裁をされるということです。経済制裁が、もし現在の中国に発動されたら、現在の中国は破綻です。ですから、そこはロシアよりも経済的な権益の多い中国は、国際的な貿易をやっている中国としてはそんなに簡単に制裁が発動されるような状況をつくりたくはない。極めて慎重にやると」
反町キャスター
「クリミアの様子を見てちょっと尖閣にも手を出しちゃおうという感じにはならない?」
宮家氏
「ならないと思いますね」

日露外相会談の行方
島田キャスター
「岸田外務大臣がロシアに行った方がいいのでしょうか、行かない方がいいのでしょうか?」
袴田教授
「日本の対露外交は大きなジレンマを抱えていると思うんですよ。大きな視点で考えますと日中関係、日韓関係、日朝関係は非常に悪いです。歴史的に最悪と言ってもいい状況になっている。こういう中でせめてロシアと日本が孤立しないためにも、ロシアとだけはきちんとした関係を構築しておこうと。この考え方自体は、私は間違っていないと思うんですよ。しかし、今回のクリミアの併合。G7の中でロシアに主権と領土の統一性が侵されている国は日本だけなんですよ。北方領土問題。日本が言うべき時に、言うべきことを言わないで誰がいつ言うのですかという問題は当然あるわけで、しかも日本は現在、中国から主権問題でいろいろ脅威を受けている。この時に日本は、主権問題ではきちんと言うべきことは言う国だということを世界に示さなかったら、今度は中国をエンカレッジしてしまう。あらかじめこの問題が起きる前に決まっていた岸田外相の訪ロ、しかも経済ミッションを引き連れての訪ロを予定通り行うとするならば、これは問題にしないという意味になってしまう、国際的にはそういうシグナル。もちろん、言うべきことは言いますと言っても岸田外務大臣、あるいは日本にウクライナ問題でどうこうするだけの力があるのですかと聞かれたら、残念ながら行ってくれとは誰も思っていないんです。私は今回、岸田外務大臣が行ったらロシアは喜ぶかもしれない。しかし、世界に間違ったメッセージを与えるし、もし行かなかった場合は、ロシアは制裁と見なすと。対抗措置をとります。それは秋の訪日が延期か、キャンセルになるでしょうが、私は真剣勝負でやるのであれば、それを覚悟しておかないといけない(と思う)」
宮家氏
「G7をはじめとする答え、関連各国の動きを総合的に判断、悩んでいるということですよね。私は、大枠は非常に簡単だと思っていて、武力による現状変更をやるロシアに反対しなかったら、中国の同じ動きを止めることはできませんから、それはG7をもう1回復活させて、そこに新しい役割を与えるようにしていくと思うので、まずG7の協調というのは戦略的であるべきだと思っています。その目的の戦略の範囲内で、日ロの対話をするのであれば戦術的にはいいと思います。ただ、それは今でしょうか。戦術的な目的と戦略的な目的が逆転してはいけないと私は思います」
反町キャスター
「北方領土は暫く諦めるしかないんですね?」
宮家氏
「北方領土についてロシアが新しい戦略的な譲歩をしてくる可能性は極めて低いと思っています。現在ロシアの動きは戦術的な動きだと思っています。ですから、ガスを売りたい。シェールガスの影響でロシアのガスが売れなくなったから買ってほしい。そうしたら少し北方領土のことを考えてもいいと言っているようにしか聞こえない。違いますか?」
袴田教授
「宮家さんの答えも含めて、マスコミ関係者に私は言いたいことがあるのです。どういうことかと言いますと、宮家さんがおっしゃったように大きな戦略的視点から見て、ロシアがどうしても日本に領土問題で譲歩をしなきゃならないという、中国問題等も含め、そういう状況にはない。ロシアの最大の関心は、日本との経済関係の強化。私も戦略的には大きな枠組みではロシアとの関係はきちんとすべきだと思っているんですけれど、それはロシア側にはっきりとメッセージは伝える。それはこれまでやってきたし、それを今後もやっていけばいいんです。個々についての問題は日本としては絶対認められませんよと。そういう問題を言うべき時は、例え、大きな戦略的な枠組みで環境を良くしようと思っていても、一時的に相手を怒らせてもそういうことを言わなければ、本当の友達という意味合いでも言いたいことを言ってくれる人が本当の友達だと。常に甘い言葉だけの人は本当の友かという問題があるわけですよ。そういう意味では、ロシアに対して現在世界に誤解を与えるような行動をすべきではないと思っているのですが、ただ、もし岸田外相が訪ロというのを取りやめた場合、オバマ大統領も23日か25日に来ますから、その前に準備をするわけにいかないし、そのあとでは遅すぎるしということで、おそらく取りやめになる可能性がかなり高くなると見ているのですが、ロシアはプーチン氏の秋の訪日はやめるというアプローチになる可能性が高い。その時、領土問題がおおいに前進したかもしれない、解決に向かって進んだかもしれないのに、日本はG7に同調してバカなアプローチをしたが故にせっかくの千載一遇のチャンスを逃してしまった。そういう声がマスコミからわっとあがりそうな気がするんですよ」
中山教授
「抑えておかなければいけないのは、国際政治とか、社会を支える規範を踏みにじったわけですよね。そこを日本としてどう捉えるかということを考えると今回の訪ロというのは控えた方がいいだろうと。ともすると我々はオバマの弱さとか、そちらの方向ばかりに目がいってしまいますが、問題を引き起こした、引き起こしたのはウクライナの情勢に皆が引きずられたわけですが、そういう中でああいう行動をとったのはプーチン氏なわけですよね。そこをきちんと抑えると、今回の訪ロはタイミング的に控えた方がいいのではないのかなという感じがします」
反町キャスター
「天安門事件の時には日本が最初に手を差し伸べました」
宮家氏
「天安門事件の時は、なぜ中国に経済支援をすべきかという議論があったと思うんですよ。中国が現在のような状態で我々はどんどんおかしくなるかもしれないけれど、経済的に発展させることによって、中国は変わっていくのだという信念があったんですよ、間違ったんですけれどね。当時は中国を経済的に豊かにすることによって中国の社会が変わるが政治体制も少しずつ変わっていくんだという強い信念が国際的にあって、特に日本はそれが強くてそれを実行したわけですよ。だけど、現在のロシアにそれがありますか?そういったものはないですね」

第二の冷戦はあるのか
島田キャスター
「第二の冷戦はあるのかどうかについては」
中山教授
「冷戦のアナロジーで見ちゃうというのは、わかりやすいのでその言葉が出てくるのはわかる。つまり、冷戦後に起きた紛争というのは、アフリカの破綻国家の問題で、国と国が正面からぶつかり合うという状況はあまりなかったわけですね。今回アメリカとロシアはかなり直接的に対立しているという状況なので、冷戦という言葉が出てくるのはわかるのですが、実は現在の状況というのは2つの極がぶつかり合っているわけではなく、むしろ極がないことによる不安定化ということだと思うんです。そこが冷戦とは決定的に違っていて、言葉として、たとえば、Gゼロとか、無極、アメリカ後の世界ということがありますけれども、世界を統御する中心がなくなって混沌とした要素が噴出している状況なのではないでしょうか」
宮家氏
「2つの意味で冷戦ではないと思う。第一は我々が知っている冷戦はイデオロギー同士の戦争で、ロジックはイデオロギーだったんです、基本的に。それではないし、冷戦の時代には西側が決してソ連の経済に依存していなかった。しかし、現在西洋はロシアのエネルギーに依存し、ロシアはイギリスのシティのお金に依存し、フランスの武器に依存し、ドイツの資金に依存しているわけですよ。ですから、そこは冷戦時代と違うロジックで動くのは当然だと思います」

新しいパワーバランス 日本の立ち位置と方向性
島田キャスター
「極がなくなった時に日本はその中でどう振る舞うべきなのでしょうか」
中山教授
「日本の安全保障環境を考えると、当然日米同盟というのは依然として重要で、それを進化させていかなければいけないのは大前提だと思うのですけれど、同時に安倍政権がいろいろ取り組んでいることですが、その他同盟プラスのパートナーをたくさんつくっていく。オーストラリアもそうですし、インドもそうなのでしょう。韓国ですよね。日韓関係をどうにかすることが日本の重要な案件の1つになってくるのではないか」
袴田教授
「各国との関係を構築するということで、重要な安全保障の枠組みにするのは重要ですが、私も現在の状況の下では米国との安全保障の面での関係を再重要視すべきだと思うんです。ただ、冷戦時代には2つの陣営に分かれていて、安全保障はアメリカに頼っていればよかったんですよ。だから、日本は本気で安全保障の問題を、真剣勝負で主権を守るという問題を考えなくてもよかった。しかし、現在アメリカとの関係がいくら重要だと言っても、同時にそれぞれの国家のファクターがいろんな形で1つの秩序のない状況でうごめくような状態になった以上、安全保障のための自助努力も極めて重要になってくる。これまでのようにアメリカに全て頼りきっている時代ではなくなってきているんだという、そこも重要なポイントだと思います」

袴田茂樹 新潟県立大学教授の提言:『メリハリを付けた対外政策』
袴田教授
「八方美人で気配り外交、どことも摩擦を起こさないよう、どこにも悪い感情を与えないようにという外交ではダメ。ロシアを例えに出すと、対極的には戦略的に良好な関係を築きますよときちんと伝えながらも、個々の問題では、主権侵害の問題では絶対譲れませんよという形でメリハリをつける。つまり、不快感、あるいは怒りを示すべき時にはきちんと示す。その時、相手は一見怒っているようでも結果的には尊敬するんですよ。逆に常に相手の機嫌をとっていると内心バカにされるということです。長期的な視点から良い関係を保つためにこそと言いたいです」

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の提言:『戦略と戦術を区別する』
宮家氏
「いつも言っていることですが、戦略と戦術は違う。戦略というのは、その国、もしくはその会社でもいいのですが、最も重要な利益であります。それを動かす時にある程度戦術的なものは取り除いていかないと戦略は守れない。最終的な利益は守れないと思います。外交をやっていく時に一番大事な問題は何なのか。それ以外に妥協できるものは何なのかという戦略と戦術を区別する。これが一番大事だと思います」

中山俊宏 慶應義塾大学教授の提言:『達観すべきではない』
中山教授
「現在の状況を見て、しょうがないよねという雰囲気が日本にあるような気がするんです。オバマ氏もああだし、プーチン氏もああいう人だし、しょうがないでしょう、国際政治の現実だからと。でも抑えておくべきところは抑えておくべきで、それは規範が力によって破られた。それに対してきちんと日本として姿勢を示していかないといけないというのは原則として考えておかなければいけないということで、達観すべきではないと」