宇宙ゴミ接近!その時…
島田キャスター「スペースデブリ(宇宙ゴミ)接近で避難されたと聞いていますが、避難とはどうされたのですか」
古川飛行士「だいたい10cm以上の大きさのモノは、軌道が追跡されていまして、そういったものが近づいてくるのがわかった時には軌道を変えて逃げるんですね。宇宙ステーションがエンジンを噴いて軌道を変えて逃げるんですけれど、この時は近づいてくることがわかったのが直前でしたので、軌道を変える選択肢がなかったんです。そのために避難しました。その前に、万が一、宇宙ステーションにこの宇宙ゴミが当たって穴が開いても大丈夫なように全てのモジュールのハッチ(扉)を全て閉めてまわって、緊急避難ボートである、ソユーズ宇宙船の中で待機していたんです」
小林解説委員「実際に飛んできたデブリとはどんなものなんですか?」
古川飛行士「相対速度が秒速13kmで、万が一当たるととてつもないエネルギーで、映画『アルマゲドン』の冒頭のように宇宙ステーションに穴が開いて、減圧して、大きな事故になった可能性もあります。もちろん、そうしたことに向けて訓練はしておりまして、訓練の通りに行ったんですけれども、後から当たらなくてよかったと、胸を撫で下ろしました」
反町キャスター「その時は何分前、何時間前くらいなのですか?」
古川飛行士「この時はわかったのは数時間前ですね。実は緊急時の対応訓練を、ちょうど訓練として終えた時に、その一報が入って、これも訓練かなと思ったんですが、これは本当なんだと言われて、それにつなげて行ったんです」
島田キャスター「パニックになりました?」
古川飛行士「いえ、自分達にできることをやるだけですので」
反町キャスター「ソユーズ宇宙船に行ったって、ソユーズ宇宙船に当たる可能性もあるわけでしょ?」
古川飛行士「あります。そうなったらたぶんダメですね」
宇宙ステーションの生活とは
反町キャスター「24時間はどんなリズムで動いているんですか?」
古川飛行士「1秒間に8キロメートルのスピードで進んでいますので、地球を90分で1周してしまいます。1日に16回、日の出と日の入りがあります。ですから、明るくなったら昼間、暗くなったら夜という生活をしていると、とても人間らしい生活はできません。ですので、世界標準時を採用して生活しています」
島田キャスター「食べ物は、好きな物を持っていけると聞いたのですが、古川さんは何かリクエストしたものはあるのですか?」
古川飛行士「日本食ということで鯖の味噌煮とか」
海部教授「スペースシャトルが退役したという話はまさに時代を隔すると言えて、軍事など競争レベルでやってきた宇宙への進出がここで1つ区切りがついて、スペースシャトルの後を担っているのがロシア。地球規模の協力で乗り出していくという段階に来ていると思うんですよ。人間はこれから宇宙に進出していくと。地球の海・空・陸は我々はほぼ知っているわけで、人間の活動の場としての宇宙はまだまだこれからで、未知なものがたくさんあって、古川さんもたくさんおやりになったように、多くの科学の実験装置が宇宙ステーションに積まれていますよね。そういう宇宙でなければできない科学をやるということに加えて、人間が今後どのくらい滞在したり、活動したりしていけるかという1つのステップと私は大変興味を持っています」
島田キャスター「167日は長くなかったのですか?」
古川飛行士「1日1日はとても忙しくて、充実していて密度の濃い滞在でしたね。できればもう少し滞在して実験を続けたいなと正直思っていました」
医師が見た宇宙生活とは
島田キャスター「古川さんはもともとは外科医ですよね。医師として宇宙における実験の成果というのは?」
古川飛行士「骨粗しょう症という骨が弱くなってしまう病気があります。宇宙でも重力の刺激がないので、それと同じような減少が起きるんですよね。骨や筋肉が弱ってしまうんです。驚くべきことに地上で骨粗しょう症の病気の進むスピードの10倍程度の速さで進んでしまいます。地上での1年分が1か月程度で起こってしまうんですね。骨が1か月で1%から1.5%弱くなってしまうんです。それを防ぐために一所懸命運動するのですが、運動だけでは防ぎきれないところがありまして、地上で骨粗しょう症の治療薬として使われている薬を予防的に飲んで、骨が弱るのを防げないかという実験をしました。自らが被験者になって行ったんですけれど、私自身のデータで言いますと、飛行前と飛行後を比べて骨密度は全く落ちていませんでした」
小林解説委員「人工的に1日のリズムをつくるんですよね。眠くなるとか、何日かすると適応できてくるのですか?」
古川飛行士「ちょうど、時差ぼけが直るような感じで、1週間程度でしょうか。宇宙ステーションでの世界標準時に体が慣れて、体内時計がきっと感知しているのだと思うのですけれど、窓がないところで生活している状況なのですが、朝になると体が朝だというのがわかりますし、夕方になると夕方だと体が感じるんです。とても不思議でした」
島田キャスター「気持ちが悪くならないのですか?」
古川飛行士「実は宇宙に行った当初、宇宙病になりました。大変気持ちが悪くなって、ずっと乗り物酔いしているような感じなんですね。頭を動かすと気持ち悪くなって大変でした。ただ、1週間経つとケロっと良くなりまして、無重力環境に体が適応していく過程なんだと思いました」
反町キャスター「宇宙線の話なんですが、先般、最初の帰国時の記者会見で、半年間で100から150ミリシーベルトの放射線を浴びたと話されましたが、100から150ミリシーベルトというと、普通の人間が地球で100年間に浴びる放射線ですよね。自ら志願して行っているとは言いながら、100から150ミリシーベルトは最初からその数字を覚悟して行っていたのですか?」
古川飛行士「最初から覚悟していました。これまでの例からそれぐらいいくだろうと言われていましたし、宇宙に行って仕事をするという利点の方を考えて、自分にとっては許容可能なリスクです」
反町キャスター「発生する癌のリスクはどのぐらい上がるのですか?」
古川飛行士「よく言われているのは1%程度、癌になる確率が上がると言われています。ただ、現状日本人が一生のうちに癌になる確率がほぼ50%程度と言われています。ですので、その50%が51%になったと考えると、十分許容可能だと考えています」
何が宇宙へと駆り立てた?
島田キャスター「医師としてのキャリアを置いてまでも宇宙飛行士になりたかったのはなぜですか?」
古川飛行士「簡単に言うと、子供の頃からの宇宙への憧れが甦ったんですね。実は医師になって9年ぐらい経った頃に夜当直として病院で仕事をしている時、テレビのニュースが流れ込んできました。新しく日本人宇宙飛行士を募集するというニュースだったんです。選ばれた人は3か月から6か月、宇宙ステーションに滞在して科学の実験を行うというニュースでした。大袈裟何ですけれども、脳天に稲妻が落ちたような衝撃を受けて、これをやりたいと思ったんです。これまで培ってきた医師としての知識や技術も活かせると思ったんですね。ここで挑戦しなければ後悔すると思ったんです。優秀な方がたくさん応募してきますから、大変難しいと思ったんですが、それでもここで最初から諦めてしまったら後で後悔すると思ったので、できる限りのことはやりたいと思いました」
準備期間12年の現実
反町キャスター「東日本大震災という大きな地震がありまして、僕は原発とか、地震予知とか、科学が問われた局面になったと思うんですよ。科学が完全に崩壊した中で、敢えてその科学の塊みたいなものに乗って出て行くという気持ちは自分の中で整理できていたのですか?」
古川飛行士「私の中ではできていました。というのは、信頼できる仲間ができる限りのことを尽くしてくれたものですから、許容できるリスクだと思っていました。宇宙開発に関しては100%安全というのは当然あり得なくて、リスクは必ずあり得るんですね。そういったものは、たとえば、手順書なり、宇宙船の設計でカバーするなり、運用でカバーするなり、なるべくリスクを減らそうという努力を精一杯するわけなんです。それでも、拭いきれないリスクが1%程度あるということで、それはもう覚悟の上です」
島田キャスター「宇宙に携わる仕事になってから死生観は変わりましたか?」
古川飛行士「そうですね。もしかしたら事故があるかと思うと、不思議な気持ちでしたね。恐怖ではなくて。腹をくくるしかなかったですから。リスクがあることは承知した上で、自分でできることをやろうと思っていました」
宇宙開発の現状とは
島田キャスター「スペースシャトルの引退をどう捉えていますか?」
古川飛行士「スペースシャトルプログラムというのは日本と日本人に夢と希望、挑戦者精神を教えてくれたと思います。そのスペースシャトルがちょうど引退する時に国際宇宙ステーションにいて、それを迎えることができたのはとても光栄です。ちょっと残念ですが」
島田キャスター「スペースシャトルの引退で、宇宙に行くのが難しくなったのでは」
古川飛行士「米国の有人宇宙船は現在一時的になくなっているのですが、ロシアのソユーズ宇宙船という3人乗りの宇宙船がありますので、これまでよりも一度に行ける人数は、スペースシャトルは7人ほど乗れますから、減っていますが大丈夫だと思います」
反町キャスター「国際宇宙ステーションの今後のオペレーションは変わっていくのですか?」
古川飛行士「科学の実験は今後も続きます。物資を上げるためには、スペースシャトルに代わって、引き継ぐ形で『こうのとり』という日本の補給船や、ATVというヨーロッパの補給船、プログレスと呼ばれるロシアの補給船がそれぞれ実験の物資や生活物資、道具等を運んでいくことができるんです。そうした形で科学の実験は今後も続いていきます」
反町キャスター「国際宇宙ステーションの耐容年数は大丈夫なんですか?」
古川飛行士「まだ大丈夫です。非常によく設計されていますので」
海部教授「私はJAXAの宇宙利用委員会と言う、『きぼう』及び船外施設で行う科学プログラムを審査したり、決めたりする委員会の委員長を務めてきました。スペースシャトルにはいろいろ問題があったわけです。ものすごく遅かった。ものすごくお金がかかった。一時期はその存続すら危ぶまれたんですけれども。私は、宇宙というのは科学をやるには非常に重要な場だと思いますから、そういうものを活かす。巨大なお金は使えませんが、しかしながら、今後も補給でつないでいくことは十分にできるわけです。ですから、今後も暫くは宇宙でなければできないサイエンスをやっていく場として。もう1つ、古川さんのように人間自身が今後どういうふうに滞在していけるのかを実証する場として使い尽くしてもらいたいですね」
原動力は何か
反町キャスター「中国は国際的な協力体制から外れています。中国の宇宙開発のやり方を見ていると明らかに軍事と国威発揚を感じるのですが、中国の技術のレベルをどのように見ているのでしょうか」
海部教授「中国はロケットの打ち上げの技術ではほぼレベルに達しているんです。実際人を送り出しています。中国は、アメリカ、ソ連のかつての歴史をなぞっているわけです。そこから脱却していくだろう。現在の体制はもっともっと文化的としても、世界との協力にしても熟成していくと思います」
反町キャスター「科学者の間では、米中のデータ交換や意見交換は普通におこなわれているのですか?」
海部教授「それはどんどん盛んになっています。かつては非常に難しかったんですが、中国側が現在、その面についてはオープンになってきています。ハードウェアで持ち出すことはできますが、ソフトウェアはまだまだです」
島田キャスター「宇宙は誰のものと決まっているのですか? ルールみたいなものがあるのですか?」
古川飛行士「特定の国が所有してはいけないという国際法があると理解しています」
海部教授「宇宙ゴミに関する国際法について真剣に議論されています。日本はまだそういう専門家は少ないのですが、アメリカにはかなりいるんです。中国は、かつてアメリカやソ連がやったことを自分達もまずはキャッチアップしたいという気持ちが強い。軍事に関して言えば、現在でもアメリカもロシアも我々の知らないところでやっているんですよ。軍事衛星についても情報をちゃんと交換するということになっているはずですが、共有はされるんですが、それをじゃあ国際的にどうきちっと管理していくかという、まさにこれからそういう時代になるんですよ。ゴミの問題もそこに含まれます」
なぜ「火星」なのか? 有人探査の狙いとは
反町キャスター「火星に有人ロケットが行くための技術はどういうレベルなのですか?」
古川飛行士「まだもう少しステップがいります。というのは現状のロケットのスピードですと、片道で半年間かかります。地球と火星の相対的な関係が一番いい時期になった時に最短でそれだけかかるんです。それを逃すともっとかかってしまうんです。さらにその後、次のいい相対的な関係になる時期まで1年ほど待って、またいい関係になってから戻ってくる。2年以上のオペレーションになります」
島田キャスター「日本の現在の宇宙開発技術はどのぐらいのレベルで、日本のロケットが火星に行けるのは可能性をどのようにみていますか」
海部教授「現在、宇宙におけるサイエンスは、様々な観測は国際共同が当たり前です。この部品はこっちの国、これはこっち、とそういう分担に進んでいます。まさに国際宇宙ステーションはそうなっています。火星は人類史的事業で、アメリカが先だ、中国が先だというレベルではないと思います。やはり国際協力でやるんだと。日本も技術的な寄与は当然なすべきです。ではどの部分でやるのか。日本が全部やろうというやり方では決してありません」
「火星の有人探査」は 人類に何をもたらす?
島田キャスター「現実的にどのくらいで火星に行けるのでしょうか?」
海部教授「それはオバマさんに聞かないとわからないのですが、たとえば、月にアポロを送った時には、ケネディさんが1960年代に送ると宣言しちゃったんです。それから猛烈な開発があって、1969年に本当に送っちゃったんです。だから、技術的には本気でやろうと思えばできなくはない。しかし、あれは後で非常に無駄遣いという非難を受けました。そのことが結局長い目で見た時、宇宙開発を推進したかどうか疑問なところがありますね。ですから、これはやはり世界全体でやっていくと。多少遅れてもいいんじゃないの、皆でやるんだから、競争じゃないんだからと、そういう方向にこれからなってくるんじゃないかと私は思います」
反町キャスター「火星に行くとしたら2年とのことですが、どうしても宇宙線、放射線量とかが気になってしまうのですが、国際宇宙ステーションに半年いて100から150ミリシーベルト。火星に行って2年間だと4倍になるのですか?」
古川飛行士「そうだと思います。リスクになるとは思いますが、火星に行く人は覚悟をした上でリスクをとって行くんだと思います」
古川聡 宇宙飛行士の提言 : 「大人も夢を」
「大人自身もこうなりたい、こんなことをしたいという夢を持ち続け、それに対して努力を続けていけば、きっと大概の夢は叶うんじゃないかなと思います。子供は大人の背中を見て育ちますから、そういった姿勢を大人自らが示せばいいんじゃないかと思います」
海部宣男 放送大学教授の提言 : 「『科学ばなれ』は大人から卒業!」
「科学は人間の世界をより広くして、未来を作っていくうえで大事なんです。科学をどう使うかも人間の仕事です。日本では、子供の科学離れが随分長い間言われていますけれども、状況が良くなったかと言えばそうでもない。私はその理由がどこにあるかといえば、大人が科学離れしているからでしょうと思う。大人がまず科学離れから卒業をして、自分達が科学の大事さを考え、面白さを知り、夢を語り、子供につなげてほしい。そうしないと、日本の子供の科学離れはいつまでも言われるんじゃないかと思います」