井上芳雄インタビュー
井上芳雄さんに、この番組の収録を終えてインタビューをしました。

ウィーンを旅するのは何回目ですか?

 ウィーンは、仕事やプライベートで4、5回。モーツアルトの初演が終わった時にプライベートで行きました。普通の観光では行けないところや、一日では回れないだろうと思うスケジュールで段取っていただいたので、いろんな人に会ったり、いろんなものを見たりできた充実した旅でした。

ロケはどのくらいされたのですか?

 移動日を含めて10日程のロケでした。朝から晩まで。

番組中、雨の日もありましたが、天気には恵まれたようですね。

 予報はすごく悪かったのですが、僕が晴れ男だったようです。普段は劇場にいるので分からないのですが(笑)たぶん外に出るとだいたい晴れているんだと思います。

ご覧になった絵で印象的だったものは?

 この旅のテーマとなった未完成の肖像画が印象的ではありましたね。コンスタンツェが“この絵が好きだ、自分の中のモーツァルトに近い”と言っていたらしいです。写真がない時代なので、本当のモーツァルトの顔は分からないんですけど、奥さんがこれが一番好きだというのは、何かしら彼の持っている雰囲気が出ているんだろうという気がします。そこから読み取れることが多い気がしましたね。

訪れた場所で自身の心に残っているのはどこですか?

 譜面をみたところ、モーツァルトの家かな。(現在はモーツァルトの博物館になっている)直筆の譜面がたくさん置いてある所です。彼の確かなもの、残っているものは音楽だけですが、モーツァルトの髪の毛だと言われているものだとか、弾いたと言われているバイオリンだとか、そういうあやふやなものはいっぱいある中で、直筆の譜面が一番彼を感じられました。それを見られたということが印象深かったですね。

モーツァルトの曲の中で一番好きなものを教えて下さい。

 実は、モーツァルトは聴かないんです。自分が演じるようになってからは聴いてないんです。それまでは、音大でちょっと勉強していたのですが、聴くと考えすぎて、頭の中で溢れる思いがありすぎて、これを書いた時にモーツァルトはどうだったんだろうとか、冷静に聴けない。客観的になれないというのですかね。極端に言ってしまうと自分が書いた曲を聴かなきゃいけない感覚に近い。僕は、自分が歌ったCDとかを聴くのが好きじゃないんですよね。自分が出ている映像をみるのも好きじゃない。(この番組は)放送していたら見たいとは思いますが。

モーツァルトと似ていると思うところはありますか?

 12年前初めて演じた時には、何も共通したところがなかったんです。モーツァルトの激しい人生と比べたら何にも経験していなくて、全く分からないと思っていたんですよね。今になると分かることの方が多いなと思いますね。彼は天才ですけど、いろいろなところを旅して、その国の音楽の特徴、流行、技法を得て学び、取り入れてきた。そして、どちらかというと宮廷や貴族、限られた人のものであった音楽を、民衆のものにしようとしたことは、革新的だったろうなと思います。自分で譜面を出して、音楽会を開いたことは、音楽家としての先駆けだったらしいので、努力もしただろうし、勇気があった。そこで戦ったというのは、すごく共感しますね。

モーツァルトの家族については?

 (モーツァルト一家は)つながりが深かったんだなと思います。いろんな国を旅し続けて、家族が大事な単位で、それを基準に動いていた。だからこそ、それが足かせにもなって、才能と家族の愛情との間でもの凄く葛藤したと思うんですよね。でも、両親の教育がなかったら天才モーツァルトは生まれなかったかもしれないですし、でもそこを離れなければ、今僕たちが音楽を聴いているモーツァルトにはならなかったかもしれない。親への思いと自分がやりたい事の狭間というのは、みんなが持っているところだと思うんですよね。だからモーツァルトは35歳で短い生涯ではありましたけど、人間が持ついろんな要素を短時間で経験しつくした。両親もその間に失っていますし、かと思えば、もの凄く遊びまわったり、快楽という面でも、(恋もしたし)子供も作ったし、だから激しい人生だった。リーヴァイさんのいうように、そこに人が引き付けられるということかな。

さらに感じたこと・・・

 そうですね。今稽古もやっているし、そのこと(モーツァルトのこと)ばかり感じています。今、市村さんがお父さん(役)をやられているのですけど、最初の時には、市村さんお子さんがいらっしゃらなかったんです。12年の間にご結婚されて、お子さんもできて、ご病気もされて、今帰ってこられて・・・。そういうのを感じながら一緒にやると、やっぱり今まで感じなかった、“ああモーツァルトはなんてお父さんを大事に思っていたんだろう”と感じます。自分が年をとったから感じることもあるとは思うんですけど・・・、無条件なんですよね。親への愛とか、絶対的なものとか、でもいきたいんだという距離は前に感じていたものよりも激しくなっている。どっちも大事だからこそ、大変なんだという気はしますね。

今回の旅は井上芳雄さんにとってどんな旅でした?

 もちろん、モーツァルトを探しに行った旅ではあるのですが、モーツァルトという人を含めて、人に会いに行った旅。モーツァルトは今はいないので、そのことを一緒に話せる人たちに会いに行った。町の風景も歴史も匂いも素敵だったんですけど、思い出すのは人なんですね。会った人がこんな顔していて、こんなこと言っていたなとか。こんなもの一緒に食べたなとか。撮影しているスタッフさん含めて、僕は人に会うために旅をするのかな。大事なのは、モーツァルトの音楽が、僕たちが毎日生きていく中で、どういう影響を与えるか。それがモーツァルトのことを辿ったりする意味だと思う。今生きている人が、どう思って、どう話していたかというのが、印象的だった。

「ミュージカルモーツァルト!」が11月8日から帝国劇場で始まります。
この旅を終えて、この11月からの演技に何か変化がありそうですか?

 そうですね。一つ一つの事実とか、新しい発見とか、見てきたもの、会った人とかに影響は受けていると思う。10日間モーツァルトのことだけを考え続けて、ウィーンとザルツブルクを旅したという感触というか、ここに持っている手触りが自信になっています。それを経た自分であるということが、すごく大きいと思いますね。

この番組のどんなところを見て欲しいですか?

 僕は、まだ(全部)見てないんですけど(笑)【このインタビューの日はナレーション撮り】 劇中の「僕こそミュージック」という歌を歌っているところは、一つ大きな盛り上がりだと思います。その曲を作ったご本人にピアノを弾いてもらって、(僕も初めてなんですけど)しかもシェーンブルン宮殿の中で歌わせてもらったということ。僕がデビューした「エリザベート」もそのリーヴァイさんが作曲したミュージカルなんですよね。それがあって、世に出ることができたので、あの人がいなかったら僕はたぶん今こういうふうにはなっていなかったと思う。今の自分はいなかったと思う。リーヴァイさんはそこまで詳しくは知らないし、副産物のようなものですけど、自分にとってはすごく人生の重要な人に会って、ピアノも弾いてもらって、一緒に音楽を奏でられたというのは感動的な、嬉しいことでしたね。(映像みても嬉しそうでした)

☆是非、「ミュージカルモーツァルト!」もご覧ください。

 山崎育三郎くんというもう一人のモーツァルトもいます。僕のとは全然違う、今の彼の全てをぶつけたモーツァルトだと思うので、こちらも宜しくお願いします。